5月12日の国会で、立憲民主党の大西健介氏から「民のかまどから煙が上がっていないのに、政治は本当に何もしなくていいんでしょうか?」と消費税減税について促され、「なんで何もしないというふうに、あなたは決めるんですか!」と珍しく語気を強めた石破茂首相。
加えて大西議員に「じゃあ何やるんですか。人の案にケチつけるんじゃなくて、自分たちの案をちゃんと早く示してくださいよ」と畳みかけると石破首相は顔を赤くして、「広くあまねくやるということよりも、本当に困っておられる方々にきちんとした支援が行うことができる。そして次の時代に責任を持つ。何もしないなんぞということは全くございません」と啖呵を切った。
さて、夏の参院選を前に政府与党内では、困窮世帯に絞った所得制限付きの現金給付を行う案が浮上しているようだが…。政治部記者の話。
「石破氏はもともと消費税減税に否定的な立場で、表向きには財政状況や高齢化、税率の低さをその理由に挙げていますが、財務省の顔色を窺っていることはミエミエ。とはいえ、物価高騰や消費の冷え込みが続く中、参院選を前になにか目に見える形で策を講じなければならない。結果、貧困層への現金給付案が浮上したのでしょう。確かに現金給付は、他の経済対策に比べ分かりやすく、迅速な支援が可能という利点があり、一時的には個人消費が刺激されることはある。ただ、それで経済全体の活性化を図れるとは考えられず、実際、企業が行った調査でも『評価する』が2割で、6割が『評価しない』。残り2割『どちらとも言えない』としています。一時的な現金給付には国民の大半が否定的な意見を持っているということです」
しかも内閣府の発表によれば、過去の特別定額給付金による消費増加効果は、推定で給付額の22%程度というから、付け焼刃の印象が拭えない。
11日、民放の報道番組に出演した石破氏は「消費税を下げることで国の財政はどうなるのか。財源を国債の発行で補うとする意見もあるが、それは誰が返すのか」と指摘。消費税は全世代型社会保障の財源だとして、「限られた財源の中で、守っていかなければいけない人に対して、厚い支援をするやり方は本当に消費税を下げることだけなのか」と、改めて消費税を減税することに否定的な考えを示した。
一方、野党各党は夏の参院選公約に減税を盛り込む見通しで、立憲民主党は「原則1年間、食料品にかかる消費税をゼロに」という案を盛り込むことを決定、国民民主党も「食料品に限らず一律で減税するべき」との考えを示している。
「実は石破氏も一時、消費税を下げたいと考えたこともあったようです。ところが、4月下旬に立憲の野田佳彦代表が『1年間の食料品消費税ゼロ』案をぶち上げたことで、完全にタイミングを逃してしまった。もし立憲が表明した後に、曲がりなりにも与党である自民が同じような消費税現在案を出そうものなら、支持層から大反発を買うことは必至で、多くの保守層が離れていくことになるかもしれない。結果、石破氏をはじめ自民党執行部の判断により、消費税減税案から困窮世帯に絞った所得制限付き現金給付案に舵を切ったと思われます」(同)
あのトランプ米大統領でさえも「非関税障壁」と言ってはばからない消費税だが、石破政権が見ているのは、はたして国民なのか財務省なのか…。
(灯倫太郎)