【北朝鮮】「金正恩の実兄」が核保有の正当性を主張した「寄稿文」は本物なのか

 今、韓国では北朝鮮の金正恩総書記に関連した“ある人物”の動向を巡り、さまざまな憶測が飛び交っている。その人物とは、正恩氏より4歳年上の実兄、金正哲(キム・ジョンチョル)氏だ。

 正恩氏には正哲氏と、自身のスポークスマンを務める金与正氏という2人の兄妹がいるが、父・金正日氏亡き後、なぜ次男である正恩氏が後継者に選ばれたかについて現在もその理由は明らかにされていない。

 兄妹の母親は大阪生まれの在日朝鮮人二世で、金正日前総書記が溺愛したとされる高英容(コ・ヨンヒ)夫人。3人にはもう一人、金正男(キム・ジョンナム)氏という異母兄がいたが、同氏は正恩氏の命によりマレーシアで暗殺されており、実の兄・正哲氏も一切表に出てきていないことから、その消息は長い間謎に包まれていた。

「正哲氏と正恩氏は子供のころから仲が良く、1996年頃、正哲氏がスイスのインターナショナルスクールに『Pak Cheol』(パク・チョル)の名で留学すると、正恩氏もその後を追うようにスイスに留学しています。ただ、帰国してからの動静は一切明らかにされておらず、2006年6月、ドイツを旅行中、その姿をフジテレビが捉えていますが、目的は同地で開催されたエリック・クラプトンのコンサート観賞だった。何せ4日間連続でコンサート会場に足を運んでいることから、熱狂的なファンと言われています」(北朝鮮ウォッチャー)

 11年2月にも、シンガポールのライブハウスで、クラプトンのライブを鑑賞する映像が韓国KBSで公開されたこともあり、金正恩体制後の15年5月にもイギリス・ロンドンで開催された公演を訪れる姿がメディアで報じられている。ただ、北朝鮮労働党でなにかの要職や役職に就いているのか等々、そのあたりの情報については皆無。さらに、同氏とロンドンなどへ同行した元駐英北朝鮮公使・太永浩氏が脱北後の会見で「彼は政治に関心がなく、役職もない。音楽に関心があり、有能なギタリストだ」などと語っている。

「韓国の一部メディアは20年、正哲氏が朝鮮労働党の中央党組織指導部内に新設された行政指導課長を務め、その後、党中央委員会候補委員に選出されたと報じています。とはいえ、表舞台に全く出てこないため、情報の信ぴょう性には疑問の声もありました」(同)

 そんな報道から5年が経った今年4月4日、韓国のサンド研究所が運営する「サンドタイムズ」が、北朝鮮の歴史専門学術誌「歴史科学」(2023年2月号)で「わが共和国を核保有国の地位に立たせた偉大な領導者金正日同志の不滅の業績」とのタイトルの寄稿文を書いた「キム・ジョンチョル」という人物は、正恩の兄・金正哲ではないのか、との記事を掲載。それが韓国メディアで大々的に報じられ、大きな話題になっている。

「記事の寄稿者は全部で23人。寄稿者は朝鮮社会科学院の室長や金日成総合大学の博士などですが、一人を除く全員の名前と所属、役職すべてが記されています。そんな中、ただ一人『キム・ジョンチョル』という寄稿者だけ名前だけだったことで、憶測が広がったというわけなんです」(同)

 ちなみに、寄稿文は「北朝鮮が核保有国になれたのは金正日同志の不滅の業績と英雄的決断によるものだった」と、故金正日総書記の功績をたたえ、核保有の正当性を強調するもの。果たして、この「キム・ジョンチョル」という人物は、本当に正恩氏の4歳年上の実兄、金正哲氏なのか。謎が謎を呼ぶ寄稿文の作者に注目が集まっているのである。

(灯倫太郎)

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