昨秋、トランプ氏が米大統領選で勝利して以降、イスラエルを一方の当事者とする中東紛争が終結の方向へ大きく動いた。11月下旬、イスラエルとレバノン南部を拠点とする親イラン勢力ヒズボラとの間で停戦が発表され、その後も断続的に攻撃が続いたものの、以前のような軍事的緊張はない。
今年に入ってからは、イスラエルとパレスチナ・ガザ地区を拠点とするハマスの間でも停戦が発表されたが、これについてはトランプ大統領が、自身の就任前に紛争をストップさせたいとネタニヤフ首相に直訴したとみられる。トランプ氏は政権1期目の時、イスラエルとアラブ諸国の和平締結で一役を買い、在イスラエル米国大使館をエルサレムに移転するなど、親イスラエル主義に徹してネタニヤフ首相との間で蜜月関係を築いた。大統領選で勝利した際、真っ先に祝福のメッセージを送ったのがネタニヤフ氏であり、この短期間で紛争が大きく好転したのは、トランプ氏の存在が極めて大きいと言えるだろう。イエメンを拠点とする親イラン武装勢力フーシ派も、紅海での外国船舶への攻撃を停止し、1月22日にはシージャックした日本郵船の船を解放すると明らかにした。これらは、トランプマジックと言えよう。
では、今後も中東ではこうしたトランプマジックが続くのだろうか。これについては、1つの懸念がある。確かに、トランプ氏が大統領就任以降、イスラエルは紛争を終わらせる方向に舵を切り、ネタニヤフ氏に対する圧力は強くなったと思われる。ネタニヤフ氏とバイデン前大統領の関係は良好とは言えなかったので、ネタニヤフ氏としては“盟友”が復活したことで、まずはトランプ氏の要望を聞くことになる。
しかし、これは新たな緊張への始まりとなる恐れがある。ネタニヤフ氏にとって最大の脅威はヒズボラでもハマスでもなく、イランである。後ろ盾であるトランプ氏が返り咲いたことで、今後はイスラエルの対イラン姿勢がいっそう硬化する懸念があるためだ。
昨年、イスラエルとイランとの間では二度にわたって交戦が生じたが、全面衝突は回避されたものの、トランプ氏は極度の親イスラエル、反イランの姿勢に徹しており、今後の4年の間に再び軍事的緊張が高まる恐れがある。今から5年前、イラクでイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官が殺害された時、イランをめぐる軍事的緊張が高まった。今後はイスラエル・イラン情勢から目が離せない状況となるが、いざ激突となった場合、効果的なトランプマジックが繰り出されるかは未知数だ。
(北島豊)