今から5年前、いわゆるコロナ禍の前までは国内旅行より海外旅行の方が安いことも少なくなかった。それが一時162円まで迫った円安もあって海外旅行が激高に。日本以外の先進国ではコロナ禍が終わって観光客は戻ったものの、日本だけは例外。海外だけでなく、国内旅行をする人すら元に戻っていないという。
海外旅行客激減の理由は円安。本来、割安で行けたはずの団体旅行も、コロナ禍前の倍近くするところばかりで、以前なら約5万円で行けた台湾旅行が約12万円。30万円以下だったヨーロッパ旅行は60万〜70万円もしてしまう。毎年のように海外旅行を楽しんできた人で、おおよその相場を知っている人にとってみると、驚くような価格で躊躇するしかないのだ。
そして、国内旅行もコロナ禍の3年間は、政府主導の旅行支援、GOTOトラベルなどで旅行代金が半額程度になり、割引制度に多くの人が慣れてしまった。
その支援はなくなるわ、海外からのインバウンドの観光客が戻ったものだからイザ出かければどこもかしこも混んでいる。おまけにホテルや旅館は強気の価格。食事料金も軒並み上がり、神社仏閣の拝観料まで値上がり。国内旅行も実質負担は2倍近くになってしまった。こうなると、年に3回行っていた旅行が減るのは当たり前だ。
そこでコロナ禍後、すっかり高すぎて旅行から遠ざかった人に、最近の変化をお伝えしたい。それは、海外旅行の価格が今秋から、少しずつ頭打ちの傾向が出始めたのだ。
理由は明らかで、中国の不景気。景気が悪く、旅行をする人が減ったものだから、中国の航空会社が価格を大幅に値下げして客集めを始めたのだ。そのためヨーロッパやアフリカ、時にはアジアの旅行まで、中国経由で行くものが増えている。北京経由のイギリス旅行、上海経由のアフリカ旅行といった具合で、いずれも航空運賃が驚くほど安いのだ。
私は今年3月、3年ぶりに海外旅行をした。フライトは香港経由のスリランカ行きだった。唯一の直行便のスリランカ航空で行くより、香港経由のキャセイパシフィック航空を利用する方が断然安かったからに他ならない。
イギリス7日間の団体旅行を見てみると、現地での観光はさほど変わらないのに価格が10万円、時には20万円以上違うものがある。
航空会社は所有している飛行機を満席に近く埋め、効率よく飛ばしていくかが経営にとって最も大切。しかし、中国系に観光客を奪われてはたまらないのが他のアジア、中東系、欧米系の航空会社だ。次第に価格を下げ始め、それが航空運賃や団体旅行にも徐々に浸透しつつある。
今注目なのがハワイとグアム。ハワイといえば、日本を発着する航空会社からするとドル箱路線のはずなのだが、空席が非常に目立つという。そのため、エコノミークラスはもちろん、プレミアムエコノミークラスやビジネスクラスを使うツアーも値段が下がりつつある。なぜなら、ハワイ路線は、やはり日本人観光客が中心の路線で、ハワイから大挙インバウンドの客が日本にやって来るわけではないからだ。
例えばヒルトン系のホテルに3泊したとする。ハワイではホテルで朝食を頼むと4000〜5000円もしてしまうが、その朝食代も含めて、日系の航空会社で15万円、プレミアムエコノミーでも22万円というものが出始めてきた。冬の時期だが、パリやローマで4泊して、航空運賃を含めて10万円以下というプランもある。このように確実に価格は下がりつつあるのだ。
中にはまだバカ高いものもたくさんあるが、値崩れし始めたのは確か。もう一段の円高が進めば、この傾向は顕著になるはずで、来年あたりは海外旅行を復活させるのに、いい年なのかもしれない。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。8月5日に新刊「新NISA 次に買うべき12銘柄といつ売るべきかを教えます!」(扶桑社)発売。