SMAP独立で注目された芸能人の「契約訴訟」が進まないワケ

 2016年のSMAP解散騒動をはじめとして、有名芸能人が所属事務所と移籍・独立を巡ってトラブルに発展したケースは数多いが、その度ごとに指摘されるのが、芸能人側の立場の弱さだ。

 そんな状況に待ったをかけようという動きが昨年に連続して起こった。7月には「芸能界“契約トラブル” 公取委が事務所などに調査」と、公正取引委員会がこの問題に動き出したというニュースが伝えられた。調査対象としてSMAPの他、能年玲奈と清水富美加の名前も挙げられた。

 それに先立つ6月には、テレビ出演も多く、イケメン弁護士として知られる佐藤大和氏ら5人の弁護士が「日本エンターテイナーライツ協会(ERA)」という団体を設立した。事務所側とトラブった芸能人を法的にサポート、訴訟費用はクラウドファンディングで賄うという。

 だが協会設立から約1年と半年、協会が手掛けている案件は1件しか報告されていない。昨年3月に、愛媛県を拠点としたアイドルグループ「愛の葉Girls(えのはガールズ)」のメンバーだった大本萌景さん=当時16歳=の自死をめぐり、遺族が芸能事務所などを相手に起こした損害賠償請求だけだ。

 過去を顧みれば、もっと多くの案件が動き出しても良さそうに思われる。なぜ、こうした動きが進まないのか。「芸能人はなぜ干されるのか?」(鹿砦社)の著者で、公取委のヒアリングにも応じた、ジャーナリストの星野陽平氏に話を聞いた。

■業界への圧力は実証困難

――この問題が難しいのは、移籍・独立トラブルの裏で芸能事務所からかけられるとされる周囲への圧力が実証困難ということです。狭い業界内での忖度もあれば、口止めをされているので確認できないのです。誰もが口を噤んでしまうんですから、仮に裁判を起こしたところで不利な戦いになるのは目に見えている。だから協会でも目立った動きに出られないのではないでしょうか。

 日本の芸能界の異質さについては、国際比較をすれば良く分かるという。

――アメリカではエージェント制が一般的です。ハリウッドの芸能人らは個人でエージェントと契約するので個人の権利が守られる形になり、同時に組合(ギルド)にも加入するので最低賃金が保証され、仕事やギャラで揉めた場合、組合としてストライキが行われることもあります。能力主義のアメリカだからこそ、厳しい自己責任が課される一方、権利は守られています。ところが、芸能事務所が芸能人を丸抱えでシェアする日本の芸能界では権利という概念が曖昧なんです。

 そこから変えるとなると、途方もない話になってしまうが。

――法的整備が追いついていないというのも大きいと思います。過去にトラブルが生じる度に裁判で雇用契約の中身が問題となっていますが、そもそも明確な規定が存在しないからその都度揉めるという形になっています。やはりアメリカではタレントからレッスン費用を徴収したり、スクールに行ったり、そもそもマネジメントをすること自体が違法となっていますが、日本ではこれら全てが当たり前のように行われていることですよね。

 結局は弱者としての芸能人は声を上げられない。

――大物は仮に芸能事務所と対立したとしても、SMAP騒動ではツイッターのサーバーがダウンしたように、視聴者が味方に付きますからアクションを起こすことは可能です。でもそれも、ごく一部の売れっ子という例外だけです。そもそも、目立った人気を得ていない芸能人が声を上げるとは現実的にあまり考えられない。時間とコストがかかる裁判に打って出ても、得られる結果と比べたら割に合いませんからね。大本さんの場合も声を上げたのはご遺族の方で、本人ではない。自死ということもあって、レアなケースと言えるでしょう。

 とはいえ、公取委が動いたことで有名アイドルグループの契約内容が改められたといった効果も水際レベルでは上がっているという。ERAが手掛ける案件がこれから増えるかどうかも含め、いずれにせよ芸能界の今後の体質の変化が注目される。

(猫間滋)

エンタメ