時速400km試験車両が物語る「2階建て新幹線」の消滅シナリオ

 東北新幹線や上越新幹線、北陸新幹線の一部を運行しているJR東日本が2月8日、製造中の新幹線試験車両を発表した。公開されたのは「ALFA-X」と名付けられた試験車両の先頭車で、長さ22メートルにもなる長い“鼻”が特徴。JR東日本によると、これは空気抵抗を極力減らし、トンネルに突入する際の衝撃を減らすためだという。これがそのまま次世代の新幹線になるわけではないが、ロングノーズの見慣れない車体は、鉄道ファンのみならず一般的にも高い注目を集めている。

 ここで気になるのが、ALFA-Xが2階建てではないこと。東北新幹線といえば、1994年に2階建て新幹線の「E1系新幹線」が導入され、話題を集めた。これは新幹線としては初となる全車両2階建ての新幹線。1997年には同じ全車両2階建ての「E4系新幹線」が運用を開始した。

 それがなぜ、新型の試験車両は1階建てなのだろうか。

「一世を風靡した2階建て車両ですが、その後少しずつ姿を消し、現在の東北新幹線は1階建ての「E5系新幹線」にとって代わられました。次も当然1階建てでしょう。ですから試験車両も2階建てにはなっていません」(鉄道ライター)

 東北新幹線の主力車両として華々しい活躍を見せた2階建て新幹線だが、現在は構想外なのだという。

「理由はいくつかありますが、一番は時間短縮の妨げになるからです。2階建て新幹線は重くなるため加速性能の向上、スピードアップが難しいんです。今、新幹線のライバルは航空機であり、それに負けまいと1分1秒でも早く目的地に着くことが求められます。一般的に新幹線の乗車時間が4時間を切ると、航空機から新幹線に切り替える利用客が増えると言われています。スピードアップは新幹線の至上命題なんです」(前出・鉄道ライター)

 現在、東京駅と函館北斗駅は最短で4時間2分。3月に行われるダイヤ改正で4分短縮され、3時間58分と4時間を切ることになる。今後、札幌まで延伸することを考えれば、さらなるスピードアップが求められるはず。とても2階建て車両にすることなどできないだろう。

■2階建てE4系は2020年までに引退

 また、2階建て新幹線は構造上、バリアフリー化が難しいことも消えゆく理由のひとつとされている。

「今回発表された新型試験車両と関係のあることですが、空気抵抗を処理しにくいことも2階建て新幹線が姿を消す理由です。新型試験車両を見ると、先端部分が細く長くなっています。まるで空気の壁を切り裂くような形状です。こうしないとスピードアップ、トンネル突入時の衝撃をやわらげることができない。1階建てのE5系は全高3650ミリ、いっぽう2階建て新幹線のE4系は4485ミリですから、2階建てにすると新型試験車両のようなノーズにすることは難しい。空力的に不利なのは間違いありません」(前出・鉄道ライター)

 2階建て新幹線にとって時代の風は逆風になっているようだ。現在、上越新幹線で運用されているE4系新幹線も2020年までに引退することが決まっている。欠点ばかりではなく、眺望の良さや輸送量の多さが高く評価された2階建て新幹線。去ってしまうのは残念でならない。乗りに行くチャンスはあと1年ほど。今のうちに乗って、2階からの景色を楽しんでほしい。

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