習近平国家主席は4月2日、バイデン米大統領と電話会談をおこない、「台湾独立勢力の分裂活動と外部からの支持を放任しない」と改めて主張した。台湾問題への介入はレッドラインであると警告したわけだが、いくら中国がアメリカを牽制しようが、軍事的威嚇を続けようが、台湾を併合することは不可能と言っていい。
その理由は、台湾で「天然独」と呼ばれる“生まれた時から台湾は独立していた”とする民主化後生まれの若者が30代半ばになり、社会の中核を担うようになったからだ。彼らは、2014年に発生した「ひまわり学生運動」に参加し、民主主義の危機を乗り越えるきっかけをつくった学生たちでもある。
そんな台湾の内情を中国人は知らない。というより、多くの中国人は台湾を自国領だと思っている。帝国主義列強に侵食・分割された「負の歴史」を小さいころから刷り込まれた彼らにとっては、台湾問題も「負の歴史」の延長で、台湾への武力行使はそれを清算するための正当な行為、となるのである。
ところが実際は、中国4000年の歴史の中で、台湾に中国人(漢人)が住みはじめたのは明朝末期から清朝初期で、わずか数百年前しかたっていない。それよりはるか前から「高砂族」と呼ばれる先住民が住んでいた。
日清戦争のあと台湾は日本に編入され、日本の敗北で台湾が無政府状態になると、毛沢東軍に追われた中華民国政府軍(国民党)が台湾に逃れ、統治をはじめた。という経緯から習近平政府は、国民党は中国の政党であるとして、台湾簒奪の歴史には目を背け、台湾問題を内政問題に置き換えているわけだ。
そもそも中国政府は、台湾の人がなぜ自由を大事にするかをわかっていない。国民党の長年にわたる独裁政治を倒し、民主主義体制を構築した台湾人の魂を理解できないのだ。だからチベット、ウイグルを力で抑圧したように、また香港の「一国二制度」を強引に終わらせたように、従う者には甘い汁を吸わせ、反発する者には激しく威嚇することで、台湾を内側から崩壊させられると考えているのである。
台湾は戦前からそこに住む「本省人」と、戦後に大陸から来た「外省人」との分断の歴史があり、それを原動力として民主化が推し進められた。意見を異にする人を受け入れるという民主主義の基本を実践した。その結果、冒頭のような「天然独」と呼ばれる、生まれながらの独立派がいま台湾社会で重要な位置を占め始めているのだ。
「威武」「脅し」を武器とする習近平政府が勝てるわけがない。
(団勇人・ジャーナリスト)