5月の夏場所に二代目「琴桜」に改名する大関琴ノ若。初代である元横綱琴桜は母方の祖父で、先代の佐渡ケ嶽親方。“猛牛”と呼ばれ、右おっつけ、左のど輪の得意の型にはまると、無類の強さを見せた。
大相撲担当記者が言う。
「32歳で横綱に昇進した琴桜ですが、大関時代は無気力相撲の常連で、相撲競技監察委員会から警告を受けたこともあった。ところが、元力士の相撲評論家・神風正一さんと対談したことをきっかけに、相撲が一変。神風さんは文芸評論家の小林秀雄の大ファンで洞察も深く、琴桜は『神風の解説こそほんとうの解説だ』と惚れ込み、神風さんの励ましで横綱を目指したと言います」
そして翌年の1月場所、14勝1敗で連続優勝し、横綱昇進を果たすのだ。
横綱に昇進するためには「2場所連続優勝あるいはそれに準ずる成績」と横綱審議委員会の内規にあるが、そこで二代目琴桜の前に立ちはだかるのが、台頭する若手・尊富士や大の里である。苦戦を予想する声も少なくないが、果たしてどうなのか。
「春場所の両力士との一番をみると、尊富士にはいなされると右を差され、簡単に寄り切られてしまった。一方、大の里戦では一瞬、早く立つとすぐさまもろ差しになり、そのまま一気に寄り切った」(前出・大相撲記者)
師匠の佐渡ケ嶽親方は、「やはりまだ受け身になる部分がある。相手に相撲を取らせないようになれば、将来、襲名ができるのではないか」と語っている。実の父親だけに粗がよく見え、かける期待も大きい。
祖父は右おっつけ、左のど輪で相手力士に相撲を取らせなかった。二代目琴桜は得意の型を見つけられるのか。生きのいい若手が上位で当たる、夏場所が楽しみである。
(蓮見茂)