江上剛が選ぶ「今週のイチ推し本」“政界の闇”にも切り込む赤川ミステリーの真骨頂!

 赤川次郎といえば「三毛猫ホームズシリーズ」や「セーラー服と機関銃」など傑作ミステリーを連発している斯界の大御所だ。本作も、かわいい女子大生や女性刑事が活躍し、赤川次郎の魅力を堪能できる。

 主人公の工藤麻紀は大学受験の当日、駅で射殺事件に遭遇してしまい、犯人と目を合わせてしまう。殺されたのは、竹内というフリーライター。M署の刑事・西原ことみが、この事件を担当する。事件の目撃者は女子高生という情報を追うが、麻紀は事件への関わり合いを避け続ける。殺された竹内は温泉旅館の仲居、芳子と別離状態にある元夫だった。竹内の部屋は何者かが侵入した形跡があり、預金通帳には500万円もの金が入金されていた。

 一方、麻紀と同じK大に合格した友人の高倉ルミは合格発表の日に、英文学教師の前畑郁郎と会い、深い関係になっていく。男はいったい何者なのか?

 ある日、竹内を殺した容疑者が逮捕されたが、麻紀はその男が犯人ではないことを知っていた。しかし、その事実を黙殺し続ける。

 そんな中、竹内が、バーミツコのホステス・アンと付き合っていたことが判明する。刑事の西原にミツコは「竹内は(先生の)秘密を知ってしまったために殺された」と言い残し、行方不明になる─。幾つもの伏線が張り巡らされ、後半はページをめくる手が止まらなくなる。特に主人公の麻紀が魅力的だ。竹内殺害の現場に遭遇し、犯人をその目で見たにもかかわらず、見なかったことにしてしまう。それは、煩わしいことに関わり合わないですませて暮らしたいという私たちの心情そのものだ。

 しかし、彼女は徐々に勇気を出していく。このまま黙ったままでいいのか? 特に友人・ルミの危機を救うために自らの危険を顧みないところが健気でいい。

 犯人が明らかになる過程で、どんな冷血漢にも、温かい血が流れていることがわかる場面があり、ホッとさせられる。またどんなに悪いトップであっても、それに仕える者の苦しみが切実に描かれている件も感動を呼ぶ。

 今、政界は自民党の裏金問題で大揺れだ。本当に悪い奴等は、厚顔で恥知らずだ。全ての罪を部下に押し付けて平然としている。人間として最低だ。部下にも家族があり、名誉もある。彼らを犠牲にして真実を語ろうとも、責任を取ろうとも、一切しない。なんて奴等だ。そんな連中が国のリーダーとして私たちの前に立って、偉そうな顔をしている。

 本書を読んでいると、そんな破廉恥な政治家の顔が次々と浮かんできて腹が立ってきた。でも麻紀のような正義感の強い若者がいれば、この国もまだ捨てたもんじゃない。あれ? 政治家批判になってしまった。これってネタバレかな?

【「暗殺」赤川次郎・著/1815円(新潮社)】

江上剛(えがみ・ごう)54年、兵庫県生まれ。早稲田大学卒。旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)を経て02年に「非情銀行」でデビュー。10年、日本振興銀行の経営破綻に際して代表執行役社長として混乱の収拾にあたる。「翼、ふたたび」など著書多数。

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