江上剛が選ぶ「今週のイチ推し!」日本は超高齢化社会の実験室 人口学者が未来を大予測!

「10の数字で経済、少子化、環境問題を知る」と銘打った本書には、いったいどんな数が並んでいるのか。特に、私たちに関心の深い少子化の数字を見てみたい。

 第4章「出生率が低い社会の共通点」には、シンガポールの合計出生率の数字「1」が示されている。これは「1世代ごとに人口が半減することを意味している」。近年、シンガポールだけではなく日本、韓国など多くのアジアの国で少子化が進んでいる。

 反対に出生率が上がっているのは、イギリスなど婚外子の出生割合が多い国だ。結婚出産というものに縛られないで暮らすことができる国である。「出生率を上げるには、政策よりも、伝統的規範の切り崩しのほうが効果がある」と著者はいう。

 第6章「最先端の超高齢化社会は世界の未来」では日本の100歳以上の高齢者数が「7万9000人」という数字。いまや日本は、超高齢化社会のモデルなのだ。しかし、超高齢化社会の日本では「老害」だらけ。「現役世代の不満が満ち、年長者への尊敬の念が薄れ始めている」と著者は指摘する。日本の政界を見れば納得だ。

 さらに著者は「日本は、社会が高齢化すると、どうなるかを知るための『未来の実験室』であり、これから超高齢化社会に突入する国は、未来がどのようになるかを知りたければ日本をみるのがいちばんである」とまで言う。いいモデルケースになればいいのだが、少子化も高齢化も「日本化」が悪い意味で使われるのは情けない。

 日本が低成長に陥ったのは、漸進的な人口減少という足かせをずっと引きずってきたからだ。経済成長は、若者の人口増加を前提にしているが、人口増加が止まると、持続的な低インフレと相まって、低金利にも大規模な景気刺激策にも反応しなくなる。

 しかし、少子高齢化社会にもいいことはある。それは誰もが保守的になり、戦争や紛争、ストライキなど社会を不安定にさせる事態が減少するからだ。

 では少子高齢化にどのように対応すればいいのか。それは「経済力」「民族性」「エゴイズム」の「トリレンマ(三律背反)」の選択肢があると言う。「経済力」は好調な経済成長、「民族性」はある特定の民族集団の優位性、「エゴイズム」は家族より個人優先の意味である。いま日本は、「経済力」を犠牲にして「民族性」と「エゴイズム」を選択している。「そのため日本は今後の経済成長は期待できない」と著者は言う。どのような選択をしたとしても、絶対的に有効な解決策とはならないのだが、「『明日の人々』の運命を左右するのは『今日の人々』の選択以外のなにものでもない」との著者の指摘は重い。

《「人口は未来を語る「10の数字」で知る経済、少子化、環境問題」ポール・モーランド・著 橘明美・訳/2860円(NHK出版)》

江上剛(えがみ・ごう)54年、兵庫県生まれ。早稲田大学卒。旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)を経て02年に「非情銀行」でデビュー。10年、日本振興銀行の経営破綻に際して代表執行役社長として混乱の収拾にあたる。「翼、ふたたび」など著書多数。

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