イランで「道徳警察」に逮捕され、死亡したとされる22歳女性の問題を巡り、連日続く抗議デモが留まることを知らない。
死亡した女性は、西部クルディスタン州出身のマフサ・アミニさん。首都テヘラン滞在中の13日、頭を覆うヒジャブ(スカーフ)をきちんと着用してなかったとして風紀を取り締まる警察に拘束され、16日に死亡。ところが、アミニさんの脚部や顔面に打撲痕があることがわかり、暴行疑惑が浮上。父親は「死の責任は警察にある」と声を挙げた。
「警察は暴行を否定し、アミニさんは心臓発作で亡くなったと主張しました。ところが目撃者が、アミニさんは警察車両の中で殴られ、その後、意識不明に陥ったと証言したため、17日に地元サケズで行われた彼女の葬儀に大勢の市民が詰めかけ、警察へも抗議。それをきっかけに抗議デモが起こり、イラン全土に反政府デモとして広がったのです」(全国紙国際部記者)
79年のイスラム革命後、イランでは「イスラム的な」控えめの衣服を着るよう、女性は人前に出る際、全身を覆うチャドルか、頭髪を覆うスカーフと腕を隠すマントを着用することが法的に義務付けられている。ただ近年は、ヒジャブ義務化への反対運動が繰り返し行われ、その背景には「道徳警察」による厳しい取り締まりがあるという。
「彼らは『ガシュテ・エルシャド』と呼ばれる警察官で、ヒジャブなどの服装の戒律違反を犯した人々の取り締まり・逮捕を任務としているため、『道徳警察』『服装警察』とも呼ばれています。通常はチャードル(身体全体を覆う黒い布)を着用した女性警官と、バンで待機する男性警察官とで構成され、ショッピングセンターや広場、地下鉄駅など人通りの多い場所で、違反したターゲットに声をかけ拘束。その後、矯正施設や警察署に移送し、戒律に則した正しい服装について講義し釈放するというのが、一般的なパターンです。ただ、性的寛容性はないため、ここ数年はトランス女性へのハラスメント行為が問題視され国際社会からの風当たりも強く、抗議の対象にもなっていたようです」(同)
25日の人権団体イラン・ヒューマン・ライツ(IHR)の報告によれば、全土に広がったデモでの死者は少なくとも57人。26日のAFP通信でも、これまでに当局により逮捕されたデモ参加者や改革派、ジャーナリストらは数百人。治安部隊員を含め少なくとも41人の死亡が確認されているという政府筋の談話を伝えるなど、極めて危険な状態にある。
「女性の死に対する怒りはむろんのこと、デモがここまで拡大した背景には、国民を監視下に置いて自由を侵害し、経済低迷が一向に改善しない政府への怒りであることは間違いありません。ところが政府は、ネット環境を遮断し、デモ動画投稿を封じ、その間にデモ隊を力で制圧するという手段に出た。これは、19年にイランで起きたガソリン値上げ抗議デモの際と同様ですが、このときロイター通信が報じた死者の数は推定1500人。今回のデモはそれ以降の最大規模で、ライシ大統領も22日の記者会見で『秩序を乱す行為は受け入れられない』と述べ、武力弾圧も辞さないとしていますからね。このままいくと、19年に匹敵する犠牲者が出ることも予想され、予断を許さない状況になってきました」(同)
現地メディアによれば、治安部隊がデモ隊に対し実弾を発砲しているとの情報もある。収束の見通しは立っていない。
(灯倫太郎)