吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘に次ぎ戦後4人目となる「大勲位菊花章頸飾」を授与され、憲政史にその名を刻んだ安倍晋三元総理。思わぬ凶弾に倒れ、祖父の代からの悲願である「憲法改正」は道半ばとなった。そればかりか、総理を輩出した華麗なる一族の血脈も断絶の危機を迎えているのだ‥‥。
「俺が安倍さんに弔辞をもらうはずだった」
友人代表の弔辞で悔しさをにじませたのは、第2次安倍内閣で副総理を務めた盟友・麻生太郎元総理(81)だった。
7月12日、港区・増上寺で執り行われた安倍晋三元総理(享年67歳)の葬儀は、小雨まじりの重苦しい空模様にもかかわらず、弔問に訪れる一般客の長い列は途絶えることがなかった。
政治部デスクが説明する。
「各国首脳から続々と弔辞が寄せられるなど、憲政史上最長となる7年8カ月に及ぶ長期政権を築いた、安倍元総理の存在感を改めて示すことになった。類を見ないほどの一般弔問の参列となったのは、やはり演説中に凶弾に倒れたという衝撃的な最期が大きく影響したものと思われます。『国葬』を望む声が高まり、今秋にも大規模式典が予定されています」
一方、凶行に及んだ山上徹也容疑者(41)は犯行動機について、母親が統一教会に入信して1億円に上る献金をつぎ込んだことで、借金苦にあえぎ、家庭は崩壊。同教団と関係が深いと狂信したことで、安倍元総理を銃撃したと、当初から明かしていた。
さらには「祖父の岸信介元総理が宗教団体を日本に招いたという話があり、その親族である安倍元総理を狙うことにした」とも供述したことが、新たな波紋を呼んでいる。
7月10日、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は緊急会見を開き、山上容疑者の母親が教会会員であることを認めたものの「岸元総理が何か特別な計らいをしたとか、特別な影響を与えているかということはまずない」と、全面否定している。この構図を理解するには、半世紀前の東アジアの情勢を思い起こす必要があるだろう。
ベテラン政治ジャーナリストが当時を振り返る。
「60年代は共産主義の脅威という現実があり、特に38度線という防衛ラインに臨む韓国と日米の3国は今より親密な関係だった。そのために韓国での反共運動を日本でも醸成すべく、極右フィクサーなどが統一教会の創設者・文鮮明を招き、政治団体『国際勝共連合』を設立した。その音頭をとったのが〝昭和の妖怪〟岸信介だと言われている」
その後、霊感商法や合同結婚式などが大きな社会問題となったことは記憶に生々しいが、祖父の因縁で孫が悲業の死を遂げることになったのか。
カルト教団に詳しい、ジャーナリストの藤倉善郎氏が闇に包まれたベールを解説する。
「実は、岸時代から安倍時代に至るまで連綿と統一教会との関係が続いてきたわけではない。統一教会は70年〜80年代に食い込んだ国会議員・地方議員との関係が、一時は全体的に薄れていた。しかし、09年頃から再接近が始まると、安倍内閣では『桜を見る会』に関連団体が招待されたほか、一時は閣僚12人が教会と何らかの関係を持っていた。当選直後の米トランプ大統領との会談も教会の手配によるものとされます。さらに昨年9月になると、安倍元総理が統一教会の友好団体・天宙平和連合(UPF)の集会関連団体にビデオメッセージを送り、自ら深い関係を築いてしまったのです」
山上容疑者の母親は少なくとも94年頃には統一教会への献金を始め、実家の土地を売り払うなどして、02年には自己破産している。社会部記者が後を引き継ぐ。
「一方、山上容疑者は地元の進学校に通っていたが、02年に海上自衛隊に入隊。退任後はアルバイトなどを経て、事件当時は人材派遣会社に登録し、フォークリフトの運転などをしていた。昨年9月、文鮮明の妻・韓鶴子へ『敬意を表す』とメッセージを送った安倍元総理の動画を見て、教団トップからターゲットを切り替えたとみられます」
その後、山上容疑者は散弾銃を自作し、参院選で遊説行脚する安倍元総理を付け回した。ところが犯行前日、まるでテロリストに呼び寄せられるかのように、遊説先が容疑者の居住する奈良へと急遽変更。奈良県警の警備不備などの偶然が重なり、悲劇的な結末となったのだ。
*安倍一族「プリンス後継」のウルトラC(2)につづく