世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”ソフトボールを金に導いた「当たりゴー」

 ソフトボールの金メダルには感動した。上野の投球に北京五輪から13年ぶりの思いが伝わってきた。チーム全体に「絶対勝つ」という気迫があった。あの姿こそ本物の「一丸」と言える。鉄壁の守備で1点を防ぎ、攻撃では際どい球を見極めて、ファウルで粘って四球をもぎとる。ランナーがいる場面では、進塁打で進めて、三塁走者は「当たりゴー」などの高度な走塁で1点を奪っていた。

「当たりゴー」というのは、僕が現役時代の阪急・上田監督が得意としたギャンブル的な走塁戦術。普通は無死や一死で三塁走者は打球がゴロと分かった瞬間にスタートする。でも「当たりゴー」というのは、バットがボールに当たった瞬間にスタートを切る。当然、ライナーになったら併殺になるリスクもあるが、ゴロならセーフになる確率が上がる。

 阪急は「当たりゴー」より、さらに上のエンドラン気味のスタートもあった。投手の投げた球を見て、ストライクゾーンの低めならスタートを切るというもの。バットにボールが当たった瞬間にはすでに三本間の半分ぐらいまで出ているので、空振りや見逃し、ライナーなら戻ることはできない。打者との信頼関係がないとできない作戦。日本シリーズで巨人相手に成功させた時などは、してやったりやった。

 打者に重圧のかかる大舞台でこそ、機動力野球が重要になる。キャンプでは巨人に勝つために繰り返し練習させられた。他には無死一、二塁で打者がゴロを打った場合、二塁走者は併殺の間に一気に本塁を狙う走塁もよくやらされた。

 侍ジャパンも派手な野球ではなく、緻密な走塁がカギを握ると思う。参加国のメンバーを見たら日本が金メダルを獲得して当然やけど、何が起きるか分からないのが野球。ドミニカとの初戦も苦しみながらの逆転サヨナラ勝ちやった。この原稿を書いている段階ではメダルの行方は分からないけど、細かい作戦がどこまでできるか。稲葉監督のベンチワークも重要になる。

 話は変わるけど、女子ソフトボールが金メダルを獲得した時、自宅テレビの二元中継でチェックしていたのが、阪神とロッテのエキシビションゲーム。藤浪が再び先発ローテ復帰に備えて登板し、4回2失点やった。本来は、こんな裏舞台で投げている投手ではないはず。

 大阪桐蔭で春夏連覇を達成した当時は、投手として大谷より上と評価されていた。侍ジャパンのエースとして君臨していてもおかしくなかった。今年は開幕投手に抜擢されながら、中継ぎに転向。リリーフでも投げてみないと分からないから、使いにくい。それなら、先発で長いイニングを投げさせたほうがいい。高卒2年目で勢いのある及川あたりと、高いレベルの先発ローテ入り争いをすれば、阪神の逃げ切り優勝が見えてくるんやけどな。

 最後に五輪で言いたいことがある。開会式は時間が遅すぎて、子供たちに見せることができない。緊急事態宣言下、飲食店を早い時間で閉めさせているのに、五輪だけ「なんで?」となる。なぜもっと早い時間にできなかったのか。何より、天皇陛下が開会を宣言している時に、菅首相と小池東京都知事が途中まで着席していたのは、日本の代表としていかがなものか。コロナの感染者数も爆発的に増えている。とにかく今は無事に終わってほしいけど。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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