欧米から2カ月遅れでワクチン接種が始まった日本。まず、医療従事者、高齢者、基礎疾患患者‥‥と順番待ちの状況だ。その一方、未承認ながら効果抜群だと一部で報じられる「奇跡の薬」が注目を浴びている。救世主として、すでに通販サイトなどを通じて購入者が殺到しているというのだが‥‥。
ネット販売に詳しいライターが打ち明ける。
「ワクチンなんかよりずっとコロナに効く薬がありますよ。なんでも、もともとは虫下しの薬だけど、開発したのは日本の有名なお医者さんで、これを飲んでおけば、たとえコロナに感染しても重症化しないようなんです。薬局では処方していませんが、通販サイトでは品薄になるほどバカ売れしています」
こうもあっさりと言い放たれた言葉が事実であれば、まさしく「コロナ救世薬」に違いない。ライターからの情報を元に、ネット上でコロナ薬を取り扱う通販サイトを検索してみると、
〈新型コロナウイルスに効果がある可能性が多数報告されています〉
〈ウイルス抑制効果で注目!新型コロナ治療薬候補〉
〈国内ではコロナ感染者の重症化予防の治療薬としてすでに治験がスタート〉
など、出るわ出るわ。数多くの個人輸入サイトで、まさに「コロナ特効薬」をうたい文句として、販売されているではないか。
しかも〈コロナの影響により配達時期は不明〉〈現在は在庫切れ〉〈〇月×日に再入荷予定〉といった但し書きがされるほどの人気ぶりなのだ。
実際、購入者の書き込みをのぞいてみると、
〈政府は何もしてくれない。自己防衛あるのみ。もしも自宅療養になった時に備えて購入しました〉
〈高齢の母を守るために購入。たとえ感染してしまっても重症化予防になる〉
〈医療従事者が予防に使っているという話もある。必要を感じたら使いたい〉
遅々として進まない政府のコロナ対策への不信感から、ワラをもすがる思いで購入している様子が浮かび上がってきた。
さらに詳しく見ると、
〈韓国のニュースで『致死率が80%減る』とか聞くと、持っているだけで安心感が違います〉
など、薬の有効性を論拠としているケースもあったのだ。
その情報源のひとつとなっていたのが、1月4日付の英国「デイリーメール」が報じた〈日本薬イベルメクチン、新型コロナ致死率80%減少効果〉という記事だ。英リバプール大のウイルス専門医による報告で、この注目の薬が投与された患者573人中の死者は8人、対して偽薬投与の510人では44人が死亡。そして前者は〈患者の体内で新型コロナウイルスが除去されるのにかかる時間を大幅に短縮させる〉としているのだ。
改めて、このコロナ薬の正式名称は「イベルメクチン」。容量、ジェネリック薬などによって違いはあるが、価格はおよそ7000円〜2万円台で販売されている。はたして、本当に奇跡の治療薬となるのだろうか。
一般には聞き慣れない同薬について、医療に詳しいジャーナリストの村上和巳氏が説明する。
「イベルメクチンは、日本では疥癬(かいせん・ヒゼンダニによる皮膚の炎症)、海外ではオンコセルカ症(河川盲目症と呼ばれる失明の原因)などに有効な薬として使われているものです。また、この薬はノーベル生理学・医学賞を受賞した北里大・大村智特別栄誉教授が、静岡県のゴルフ場の土壌から発見したという細菌が作る物質から開発された薬としても知られています」
なんと、ノーベル賞博士のお墨付きとなれば、私たち日本人もひと安心となるはずだ。
このイベルメクチン、海外ではすでにエジプト、インド、イラク、バングラデシュなどの医療機関で、コロナ患者の入院日数の短縮、死亡率の軽減などの報告がなされている。
また、南米ペルーやボリビア、南アフリカでは政府が新型コロナウイルスの治療薬として承認し、臨床試験を開始しているというのだ。
とはいえ、開発国である日本だけが後れをとっているのはなぜなのか。
社会部記者が解説する。
「イベルメクチンは日本でも、北里大など一部の病院で臨床試験が行われています。3月末をメドに試験を終え、その結果次第では、抗ウイルス薬として認可される可能性があるのです」
現在、新型コロナウイルスの治療薬として認可されているのは、ウイルス増殖を抑える抗ウイルス薬「レムデシビル」と、従来の肺炎など感染症で用いられているステロイド薬の「デキサメタゾン」の2種類のみ。これに次ぐ第3の新型コロナ薬となれば、供給不足により先送りが懸念されるワクチンを待つ身には心強いばかりだが‥‥。
「通販サイトではかなり高値で売られているようですが、イベルメクチンはもともと1錠20円程度とかなり安価な薬。そのため、欧米以外の発展途上国で積極的に使用されている背景があるのです」(村上氏)
ちなみに、レムデシビルの価格は患者1人あたり25万円。かかる費用という意味では雲泥の差だ。
しかし、村上氏が警鐘を鳴らす。
「イベルメクチンの評価は、今の段階では効くとも効かないとも言えないのが現状です。昨年春、ユタ大が新型コロナに有効だという報告を出したのが初めてでした。ところがその後、民間会社が提供した元データがかなり杜撰だったことがわかり、論文は撤回されています。これまで発展途上国を中心に報告されている臨床試験の結果も、その設定が厳格さを欠いたり、参加患者数が少ないなど、十分な評価が下せないものが多いのです。一方で副作用も報告されており、最大5%未満ですが、肝機能障害、まれにスティーブンス・ジョンソン症候群という指定難病の皮膚病が報告されています。もしも副作用が起こってしまった場合、医師から処方を受けて服用した場合には救済制度がありますが、通販購入して飲んだ場合にはその対象にならないことに留意すべきです」
厚労省は「中身が確認できない輸入薬を自己判断で服用するのは危険」と、未承認薬の安易な服用に警鐘を鳴らしている。
※「週刊アサヒ芸能」3月11日号より