対コロナの切り札とされるワクチン接種が日本でも始まり、世間では安堵感が広がりつつある。だが、まだ輸入量は少なく、世界的に見れば“コロナワクチン後進国”との声も聞かれるなかで、新たな詐欺が横行している。
「全体的にワクチン供給が遅れ気味になっており、当初は3月予定だった高齢者への接種も5月にずれ込み、一般の人は年末になるとの見方も出てきました。この供給不足につけ込んだ詐欺が横行中で、富裕層の間で流行っているのが中国製のワクチン。中国医薬集団(シノファーム)のワクチンは比較的簡単に輸入できてクリニックなどで簡単に接種できるとの噂が広がっていた。価格も一人あたり1万5000円というリーズナブルな値段なので富裕層に瞬く間に広がりました。ところが、ワクチンと称されるもののほとんどが単なる生理食塩水かブドウ糖液。裏で流通している中国製のワクチンは大半がニセモノですよ」(医療関係者)
中国製ワクチンの悪評が高まると、今度はロシア製ワクチン「スプートニクV」を謳う偽物が出回る始末。こちらは価格帯が3万円と高価だが中身は同様の生理食塩水がほとんどだという。それでも被害報告が相次ぐなか、特殊詐欺も横行し始めた。
「WHOを名乗って電話をかけてきて『5000円払えば優先順位が上がります』、『ワクチンは無料ですが、注射器代と技術料金が1万円掛かります』『注射を打つのに保証金が10万円必要です』などと銀行のATMに走らせる詐欺がかなり見られます。その手口から還付金詐欺などで荒稼ぎした犯罪者グループが関与していると思われます」(捜査関係者)
また、これまでの特殊詐欺に見られた“劇場型犯罪”も確認されている。これは複数の“掛け子”がそれぞれの役を演じて1人の標的を騙すやり方だ。
「コロナワクチン接種の権利が当選したという内容の電話がかかってきて、次に『とある富豪が当選権利を高値で買い取ります、権利を100万円で売ってください』などと別の人間から交渉を持ちかけられる。それに応じると、『途中でキャンセルされたら困るので、保証金が必要です。権利が譲渡されたらすみやかに返金されます』と、今度は保証金を要求。途中でキャンセルしようものなら『違約金が200万円発生しました』とか、弁護士役や警察役が出てきて『あなたの犯した契約不履行は法律に触れます。逮捕されて刑務所にいくことになります』などと言って大金をだまし取るのです。これは劇場型の特殊詐欺そのもので、かつては社債や未公開株の詐欺グループなどに見られた手口です」(前出・捜査関係者)
特殊詐欺グループは世間の関心事や話題に便乗をしてシナリオを書き、罠を仕掛けてくる。そこで使われる“名簿”にはかつて詐欺の被害に遭った人たちが多く名を連ねているという。
「コロナワクチン詐欺は今からが本番になる。知らない番号から電話がかかってきて『コロナワクチン』、『金』というキーワードが出てきたらすぐに電話を切るか、固定電話機ならば常時、留守番電話にしておいた方がトラブルに巻き込まれるリスクは少ない」(捜査関係者)
コロナワクチンの供給不足はいろいろな詐欺を生み出す。ワクチン供給のスピードを早めるとともに、ワクチン詐欺の防止策も重要課題になりつつあるようだ。
(月見文哉)