「深夜に港区や渋谷区を走っているとしょっちゅう見かけますよ。たいてい荷物を運び出すための大型トラックが裏口に横付けされているものですが、30代くらいの男性が、高そうなスニーカーを両手に抱えて何往復もしているような切羽詰まった状況も見たことがあります。やっぱりコロナで経済事情が急変したんですかね。そのたびに、『ざまあみろ』って胸がスカッとするんですよ」
都内でウーバーイーツの配達員として働く田中浩二さん(仮名・40代)が明かすのは、“タワマン夜逃げ”の実態だ。東京都を含む10都府県で発令されていた緊急事態宣言が延長され、多くの飲食店が夜8時までの営業時間短縮要請に従うなか、デリバリー需要は伸びる一方。深夜2時頃まで配達のオーダーが入ることも珍しくないというが、なぜ彼はそこまでタワマンの住民を目の敵にするのだろうか。
「そもそもウーバーの配達員にとって、タワマンへの配達は苦行以外の何物でもありません。配達用アプリで“乗車”を受け付ける際に、マックやケンタなどの飲食店名はわかっても配達先までは表示されません。後になってタワマンだと気付くのですが、これが高層階になると最悪。というのも、住民が利用する高速エレベーターと違って、私たちが使う荷物用のエレベーターはスピードが遅くて、30階以上になると、15分とか20分とか平気でかかりますからね。それに他の配達の人とかちあってなかなか乗れないこともしばしば…。オーダーしたお客さんはGPSで配達員の位置がだいたいわかるようになっているので、事情を知らなければマンションに到着して部屋に届けるまで時間がかかることにイライラするんでしょうね。『なにモタモタしてんの?』『珍しい機会だからタワマン内をウロウロしてたでしょ?』とかイヤミを言われることも珍しくありません」(前出・配達員男性)
ウーバーの配達員が受け取る報酬は、商品をピックアップする際の受け取り料金と受け渡し料金、それに配達距離に応じた“距離報酬”がベースとなる。たとえ地上から数百メートル離れた高層階に届けても、当然ながら報酬に反映されることはない。
「ウーバーの仕事は1時間に2件以上はこなさないと、時給1000円には届きません。たとえ2万円以上するような高級料理を運んでも報酬が上乗せされることもなく、タワマンの住民に限ってチップを渋るんですよね(笑)。ただ、なかにはいい人もいて、ある外国人の方はわざわざエントランスまで出迎えに来てくれて、現金でチップをくれました。まあ、それでもタワマンが“鬼門”であることは間違いありませんがね…」(前出・配達員男性)
実際に暮らしていても、そこに荷物を届ける人の苦労までは気が回らないようだ。