一部の世論調査では、8割が五輪の中止や再延長を求めているという。野党から「万一の事態に備えたプランBは用意しているのか」と問いただされても菅政権は「準備を進める」「安心安全な大会を進める」とのらりくらりと追及をかわしてきた。開催まで半年を切って、にわかに浮上した「プランX」の全貌とは…。
1世紀以上の歴史を持つ近代五輪で、パンデミック中の開催という前例もある。スポーツジャーナリストの満園文博氏によると、
「日本人が初めてメダルを獲った1920年のベルギー『アントワープ五輪』は、現在の情勢に似ています。当時はスペイン風邪の大流行中で、感染者数が約5億人、死者は4500万人。さらに、第一次世界大戦の直後で、戦後復興とウイルスへの勝利を果たした大会として記録されています」
この「アントワープ五輪」は宣伝不足で観客が少なかった。これがウイルスに勝つ一因になったそうだが、そのためか、東京五輪の観客を国内居住者に限定する案を政府は検討しているという。どうにもチケット収入900億円を確保したいケチな根性も透けて見える。
どうせ開催するなら「プランB」ではなく、奥の手である「プランX」を用意していてしかるべき。だが、橋本聖子五輪担当相(56)は文部科学委員会で「対策を徹底して政府一丸となって準備を進めていきたい」と判で押したような答弁。具体的な文言がないのは菅総理と同じだった。
「安倍総理は東京五輪の1年延期決定時に、自分の任期中に開催したいと2年延期案を一蹴しました。それに比べると、『菅総理は五輪への思い入れが少ない』と自民党内からも言われているほどです。インバウンドも期待できない中で、ますます五輪への熱意は感じられなくなっています」
こう話すのは、ジャーナリストの二木啓孝氏。となると、「プランX」は冷徹な決行以外にないようだ。
「結局は『アリバイ五輪』になるのでは。どんな形式になろうが、とりあえず開催されたという既成事実さえ作れればいいという五輪になる。これなら、中止による違約金も発生しない。日本もIOCもメンツを保つことはできますからね」(二木氏)
競技や参加国が減ろうが、トップ選手が欠場しようが、とりあえずの開幕となれば、観客の胸を熱くさせる場面は拝めそうにない。いや、観客以上にかわいそうなのは、出場する選手たちだろう。
「日本選手は地元開催である東京五輪に懸けているだけに、開催か中止かハッキリしない現状でモチベーションを保つのは難しい。ただ、五輪が政治に振り回された例は過去にもあります。80年のモスクワ五輪で日本はボイコット。柔道の山下泰裕選手はメダル有力候補でしたが、モスクワの不出場をバネにして次のロス五輪で、ケガを負いながら金メダルを獲った。選手たちは諦めないでほしいですね」(満園氏)
日本選手の活躍、そして感動シーンは、パリ五輪までお預けになるのか。
※「週刊アサヒ芸能」2月11日号より