米製薬大手のファイザーが開発しているコロナワクチンが、効果9割という朗報がもたらされた件。世界中で期待が高まる一方、大いに不満をもらした御仁がいる。あのドナルド・トランプ現大統領だ。
9日に第一報がもたらされた後、お得意のツイッターで、
「私はずっと、ファイザーなどは選挙が終わって初めてワクチンを発表すると言ってきた。なぜなら、選挙の前に発表する勇気がなかったからだ」「命を救うために、もっと早く発表すべきだった!」などとつぶやいた。
トランプ氏がこう不満を爆発させたのも故なきことでもない。バイデン候補が勝利宣言をした8日(日本時間)直後の発表のタイミングに、さすがに「大統領選挙外しでは」との観測が広がっているからだ。
もっとも、このタイミングについてはすでに決まっていた話で、ファイザーでは10月末までには最終治験の結果を公表できるものの、1週間程度のさらなる精査が必要とのことで、11月3日の投票日前に公表する予定がないことは事前に明らかにしていた。
だが、よりによってのタイミングがあまりにも絶妙。そして事実、トランプ氏とファイザーの以前からの関係を見れば、何らかの“政治的意図”を感じるのも不自然なことではない。
ひとつは、トランプ氏が進めていた「ワープ・スピード作戦」への不参加だ。マスクを嫌い、コロナは風邪と言って憚らなかったトランプ氏にとっては、選挙前にワクチンさえ出来上がれば大統領の座を手に入れたようなものだった。だから開発を急ぐために、ワクチン開発企業への助成を行って開発を急がせた。ところがファイザーでは「政治的な圧力」がかかる可能性があるとして、助成金の交付を断っていたのだ。
ただそれには伏線があって、2017年頃から始まった、ファイザーを代表として含めた米製薬業界とトランプ氏の間での、医薬品の値段を巡る対立がある。
「トランプ氏は大統領就任直前の17年1月に、製薬会社は人の生死に係る薬の値段を大幅に引き上げて『殺人』をおかしているにもかかわらず、政府に費用負担させていると、製薬業界を目の敵にしていました。以後、18年にはファイザーが価格を引き上げたことに対し、『恥を知るべきだ』とトランプ氏が批判、ファイザーのCEOに電話で直接値下げを迫るなどしてファイザーの株価が乱高下するという混乱がありました。今年の7月にもファイザーは、価格引き下げを促す大統領令に対し、コロナの予防・治療薬の開発を遅らせるものと反発するなど、トランプ氏とはずっと対立関係にありました」(経済紙記者)
トランプ氏とバイデン氏を政策で比較してみれば、薬価の値下げに関しては両者共通だった。
「ただ、トランプ氏は安い薬を輸入して薬価を下げて国民にアピールするつもりでした。一方のバイデン氏は社会保障政策を重視するリベラル派なので、医療保険制度の拡充で薬の売り上げ全般が伸びる可能性は高い。ファイザーがどちらを取るかは明白です」(前出・経済紙記者)
つまりは今回ばかりは敵に塩を送るつもりがなかったということか。
(猫間滋)