若者を餌食にする「キャンパスカルト」の正体(2) 偽装サークルで勧誘

 大学生を狙う「キャンパスカルト」は、A氏が受けた勧誘ほど簡単に宗教団体であることを明かさないことが多い。そのため広く知られているのは、宗教とは無関係を装ったサークルとして、学生を勧誘する手口だ。

 例えば、「浄土真宗親鸞会」(以下、親鸞会)。一般的な浄土真宗各派とは無関係の新興宗教である。世間を揺るがす事件は起こしていないが、大学関係者の間では早くから偽装サークル勧誘をする団体として有名だった。「生きる意味を考える」とか「歎異抄を学ぶ」「古典を学ぶ」などの生真面目なサークル名で、かつては4月に新入生を堂々と勧誘。多くの大学で公認されたサークルだったのだ。すっかり信用してサークルに入った新入生は、長期連休となるGWあたりで合宿に誘われる。その合宿で宗教団体であることを初めて知ることになるが、すでに人間関係を築いてしまった新入生は入信してしまうというのが一般的だった。

 だが、全国の大学が「キャンパスカルト」対策に乗り出すことになる。その契機となったのが、06年の「摂理」騒動。宗教団体である摂理の教祖、鄭明析氏が韓国で女性信者への強姦容疑で国際指名手配を受けたことを契機に、日本でも同様の事件があったことが報じられたのだ。摂理は偽装サークルを使い、日本の大学生に近づいた。その巧妙さを元信者のB氏が告白する。

「勧誘相手と親密になって正体を明かしても大丈夫と判断するまで、数カ月や長い時には1年近く、宗教団体であることを隠し続けます。私自身はサッカーサークルだと言われて勧誘されました。本当に早朝サッカーなどをやっていたので、疑いを持たなかった。サークルの拠点だというマンションの一室で食事会もやっていて、親密になってから『実は聖書の勉強もやっている』と明かされました。すでに親しくなっていたのでつい信用してしまい、サッカーをするつもりが気づいたら宗教をやっていた」

 サッカーだけでなく演劇やボランティア、国際交流活動など、勧誘相手の関心分野に合わせてさまざまな「サークル」をでっち上げる。そして、信者だけのミーティングで勧誘相手の状況を報告し、正体を明かすタイミングを話し合うという。

 こうした勧誘に大学側が行った対策は多岐にわたる。偽装サークルの公認取り消しはもちろん、学生にカルト勧誘への注意喚起を開始。また、勧誘の手口について他大学と共有。さらに、新入学シーズンに学生課職員などが一般サークル勧誘に紛れるカルトに目を光らせ、大学によってはサークル勧誘を「公認サークルのみ」「事前届け出制」といった形で強く規制するケースも出てきた。某大学の担当者X氏が、匿名を条件に現在の「キャンパスカルト」について証言する。

「規制が厳しくなって、偽装サークルの活動は目立たなくなったものの、偽装サークルと勧誘は依然として残っています。それも大学側が把握しにくい形で、巧妙化しています。最寄り駅周辺などで学生に声をかけるという、大学職員の目の届かない場所で勧誘するのはもちろん、最近はSNSを使う手口が台頭しています。学生は無防備にツイッターなどに自分の所属大学や学部などのプロフィールを書いてしまう。カルト側はそれを見て、個別にネットを通じて接触しているようです。そのため、勧誘は新入学シーズンに限らず通年化しており、新入生以外も狙われています。注意は呼びかけていますが、大学は学生の個人的な交友関係にまで介入できないのが現状です」

 現在、親鸞会が古典や仏教を学ぶサークルを装う点は以前と共通しているが、SNS上での学生勧誘にシフトしている。また、摂理は喫茶店などで受験勉強をしている高校生にも声をかける。「大学生活について現役大学生が教えてくれるイベント」に誘うのだ。就職活動を控えた大学生に対して、「有名企業に就職した先輩と交流するイベント」に誘うケースもある。

「もともと、摂理は新入生だけでなく3、4年生や院生も勧誘していました。ただ、現在は06年の騒動の頃に学生だった信者が有名企業に就職するなどしていて、そのブランドを利用して勧誘している。有能で、いわゆる意識高い系の就活生を誘うケースが出てきています」(B氏)

 あらゆる場面でカルト教団は、若者との接点を探っているのだ。

(ジャーナリスト・藤倉善郎)

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