横浜、長崎新地、南京町(神戸)に次ぐ第4の巨大中華街が生まれようとしている。それも大阪・西成に─。一時は犯罪が横行し、「大阪人でさえ足を踏み入れない」と言われた地区で何が起きているのか。中国系居酒屋が乱立したワケとは? ウラにある狙いとは? 変わりゆくドヤの聖地を緊急取材する。
2月初旬、大阪に激震が走った。
〈西成に「中華街」構想発表〉
との見出しで、「朝日新聞」(2月11日付)が、中国人経営者らによる仰天プランを報じたのだ。記事によれば、大阪万博が開催される2025年までに、西成あいりん地区の東側に120軒の中国料理店をオープンさせ、周囲にその象徴となる4つの中華門を建てることも計画に盛り込まれているという。
西成といえば、日雇い労働者向けの簡易宿舎が密集していることから「ドヤの聖地」と呼ばれていた。かつてこの街で3年間の潜入取材を続け、「潜入 生活保護の闇現場」(ミリオン新書)の著書を持つ長田龍亮氏が往時を振り返る。
「かつてのあいりん地区は、路地の両側にバラック小屋が軒を連ね、そこでは立ち飲み屋や沖縄料理屋といった、多種多様な露店が営業していました。また、ガラクタのような日用品を扱う『泥棒市』もにぎわいを見せていましたが、行政と警察の介入によって跡形もなく撤去されました。過去の〝不法占拠状態〟を美化するつもりはありませんが、非日常が味わえるという点では魅力的なドヤ街でした」
浄化作戦が行われて以降、この一帯はさびれる一方。最盛期には200軒以上あった簡易宿泊所も半減し、多くが外国人向けのホテルに取って代わられた。
シャッター通りとなった商店街に異変が起こったのは3年ほど前だという。地元の不動産経営者が語る。
「ピンクや赤のド派手な看板を出した中国系の居酒屋が出始めたんです。最初は数えるほどだったのですが、そのうち中国居酒屋の出店ラッシュが始まり、瞬く間に商店街全体に広がっていきました。西成に進出してきた中国人の不動産業者が、廃業した店舗を買いあさって、同胞の中国人に貸し出していったそうです」
こうして増殖していった中国系の飲食店は100軒近くに上るという。その中国人オーナーや不動産業者らが中心となってブチ上げたのが、冒頭の「中華街構想」というわけだ。
実際に街の声を拾うと、皆、驚きを隠せない様子だった。
「とにかくビックリしてもうて。でも、地元への根回しもまったくなく、中国人だけで決めたことやろ? ワシらには関係ないでぇ」(衣料品店店主)
危機感を募らせ、眉間にシワを寄せる住民も。
「ホンマ、今に街が乗っ取られてまうでぇ。中国人っちゅうんはえげつない商売するらしぃでぇ。(中国居酒屋の中には)えらいボッタクリもあるみたいやし」(食料品店店主)
その一方で、中国人の西成進出を歓迎する声も聞かれる。薬局の主人いわく、
「人通りがやっぱり増えてまっしゃろ。前は午後7時を回ると、このへんは誰もおらんかったからなぁ。売り上げもちょっとは上がってまんねん」
だが、日本人が営む昔ながらの居酒屋に入ると、やはり反対意見が圧倒的に多かった。店主が日本酒をつぎながら愚痴まじりに話すには、
「最初はゴミ出しのルールを守らなかったり、カラオケの騒音トラブルもしょっちゅう。路上での強引な客引きを問題視する声もあるし、中国人居酒屋には『怖い』言うて行かない人と行く人とでハッキリ分かれてますわ」
その言葉を裏づけるように、中国人居酒屋に潜入すると、数々の〝疑惑〟が浮上することになる。