世界を激震させた「ディープシーク」創業CEOの華麗すぎる経歴

 1月27日、ニューヨーク株式市場に激震が走った。生成AI向け半導体で世界一のシェアを持つ米エヌビディア(NVIDIA)の株価が前週末比で17%も下落。一瞬にして約6000億ドル(約92兆円)もの時価総額が吹き飛んだ。同社を世界首位から陥落させた要因が、中国の新興企業ディープシーク(深度求索)が開発した新型生成AI「R1」の登場だった。

 R1は、米オープンAIが開発した最新の対話型AI「o1(オーワン)」に匹敵する能力を持っているとされ、しかもAIの思考回路をすべてオープンソース方式にしているため、世界中の研究者や技術者が自在に改良を加えることが可能。そんなことから株式市場が今後「R1」が世界のAI市場に大きな影響を与える、と俊敏に反応し株価が大幅に変動したと推測される。全国紙経済部記者の話。

「世界のAI市場の成長率は毎年30~40%。米シンクタンクの発表によれば2027年には1兆ドルに達するともいわれ、これまでは豊富な投資資金をバックボーンに持つ米国企業が技術力では世界をリードしてきた。しかし、今回ディープシープが開発したR1の性能は、米オープンAIの『o1』に匹敵するとされ、しかも、オープンAIやグーグルなどが生成AIの開発に投じてきた数百億ドルに対し、ディーシープ発表ではR1の前モデル『V3』の場合で開発費用はわずか557万ドル(約8億7000万円)だという。それが事実であるなら、今後も最先端AIが破格の低コストで開発できる可能性が出てくる。つまり、圧倒的優位に立っていた米国独り勝ちの現状が一気に中国に取って代わられる可能性があるということです」

 さて、そんな米国企業を脅かすディープシープとは、いったいどんな企業なのか。ディープシークの設立は2023年5月。現在は浙江省の省都・杭州市に本社を置くが、

「創業者でCEOの梁文鋒(リャン・ウエン・フォン)氏はまだ39歳。中国メディアの報道によれば、同氏の父親は小学校教師で、中国南部の港湾都市で育ち中学時代に独学で微積分を習得。中国でも名門と言われる精華大学や北京大学と並ぶ浙江大学に17歳で進学し、電子情報工学を先行した後、同大学大学院に進むと、『低コストPTZカメラを用いたターゲット追跡アルゴリズムに関する研究』という論文で修士号を取得。同時に金融取引を始め、その後2015年に、AIを使った金融取引を行うヘッジファンド『High Flyer』という会社を友人2人と共同で創立。なんと、コンピュータトレーディングにディープラーニング技法を先駆的に適用して資金を集め、1兆円を超す資産を運用するようになったというんですから驚きです。そして、事業展開していく中、AI技術開発を行う研究部門として設立したのが、ディープシークだったようです」

 ディープシークが最初のオープンソースAIモデル「ディープシーク・コーダ」を公開したのが2023年5月。そして翌24年5月、さらに進展した「ディープシーク-V2」を発売。続いて、「ディープシーク-V3」「ディープシーク-R1」と立て続けに発売し、同社の名前が世界に轟くようになった。現在、ディープシークの社員数は200人ほどで、社員の多くは20~30代だというが、社員の多くが数学やコンピュータ、大規模言語モデル(LLM)といった分野で博士号を取得する、まさに少数精鋭を地で行く企業のようだ。

 ニューヨーク株式市場での快進撃を受け、共産党機関紙「人民日報」ほか、国営新華社通信なども、続々ディープシーク関連記事を配信しているが、まさに数学オタクが今後、AIの世界を左右するかもしれない「ディープシープ・ショック」。この、少数精鋭企業に世界市場の視線が注がれている。

(灯倫太郎)

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