崩壊したシリアのアサド政権がロシアに持ち逃げした資金は、日本円にして約385億円だという。しかも、その大半の資金が、裏の麻薬ビジネスで稼いだカネだと囁かれている。そして、アサド政権が崩壊したことで、シリア麻薬がコントロールを失い世界に拡散される恐れも出てきているという。
警察OB関係者の話。
「アサド政権崩壊後、ロイター通信などがシリア麻薬の実態を報道、世界に衝撃を与えている」
報道に基づけば、シリアの首都ダマスカス郊外の「秘密工場」には多くの麻薬製造の痕跡が残されていたという。例えば表面的には工場の倉庫と見られる場所。そこにあった電圧器や家具、果物に見せかけた容器から大量の錠剤が発見されたという。
「錠剤は『カプタゴン』と呼ばれる合成麻薬で、覚醒剤と同じような作用があり欧米を中心に世界中で禁止されている。しかしシリアの薬物は末端価格が安く『貧者やジハードの薬』と称され、サウジアラビアやトルコ、イラクなど周辺国に大量に出回るとともに、常に死と向き合っている戦場の兵士などの間では、死への恐怖心がなくなるとして重宝されていた。つまり撃たれても死なないようなゾンビ兵を生み出すんです」(同)
シリアでは、この違法薬物をアサド前大統領の弟、マーヘル・アサド氏が統括していたという。ロイター通信によると、シリア製カプタゴンの年間取引額は推定100億ドル(約1兆5500億円)で、アサドサイドの利益は日本円にして年間5000億円近くに上り、アサド政権を支える軍資金になっていたという。
シリア政府といえば残虐なテロ国家という面もあったが、もう一方で、世界最大級の違法薬物国家になっていたのだ。
今回、シリアを全権掌握した反体制派の指導者ジャウラニ氏らは「秘密工場」を絶滅させ、シリア国内から「カプタゴンの一掃」を目指している。しかしイギリスの軍シンクタンク関係者はこう懸念する。
「秘密部隊を率いて麻薬製造を指揮していたアサドの弟、マーヘルはアサド政権崩壊後、杳として行方が分からない。大量の資金と麻薬の原材料を持ったまま、イラクに逃げ込んだという説も根強い。つまりカネの成る木『カプタゴン』をどこかで製造し再起を期すのではとも囁かれている。中東を中心にカプタゴン中毒患者は数百万人ともいわれており、需要は高く、作れば売れるという状況がある。それだけにアサド残党が今後も秘密裏に麻薬を作り続ける可能性は高い」
さらに、驚きの展開を明かすのは欧州の軍関係者だ。
「ロシアに亡命したアサド前大統領らは大量のカプタゴンをロシアに運んだとも言われる。そのカプタゴンはウクライナ前線で戦うロシア兵や北朝鮮兵にも使用されているという未確認情報もある」
いずれにしても、統制を失った危険な薬物「カプタゴン」が世界中にバラまかれる危険性が高まりつつある。
(田村建光)