トクリュウの特徴として、指示役が逮捕されるケースはほとんどなかった。
億を超えると言われる犯罪収益をせしめて、複数の銀行口座を経由して暗号資産に変え、どのようにマネーロンダリングするのか。
日本国内では「Coincheck」や「GMOコイン」などの取引所にウォレット(財布)を作って、様々な暗号資産を購入することが可能だ。しかし、ITジャーナリストの井上トシユキ氏はこう話す。
「国内の暗号資産取引所は、徹底した身元確認と個人情報のチェックを行っています。疑わしい取引があれば、暗号資産取引所は金融庁へ届け出を行う必要があり、法整備が整っています」
そのため、マネーロンダリングには国外の取引所が利用されていた。日本の警察の捜査が及びにくく、また、個人間でも取引ができるのでアシがつきにくいためだ。先のA氏もこう明かす。
「世界的にKYC(顧客身元確認)、AML(マネーロンダリング対策)の強化が叫ばれていても、海外には無数のウォレット業者がある。身元確認が不十分で、個人情報の取り扱いもずさんなケースは多く、架空口座ならぬ架空ウォレットが比較的作りやすい。暗号資産でいえば、14年に登場したモネロ(XMR)は、誰が誰に支払ったのか追跡を困難にするリング署名という技術を用いているので匿名性に優れ、犯罪者御用達と言われていた。他にもジーキャッシュ(ZEC)やダッシュ(Dash)、オーガー(REP)などがマネーロンダリングに利用されている」
だが、警察も手をこまねいているだけではない。
10月21日までに9府県警の合同捜査本部は、他人名義のクレジットカードを使用して、フリーマーケットアプリの運営会社から不正に利益を得たとして、18人を摘発。被害額は1億円を超え、モネロを悪用してマネーロンダリングしたことが判明。警察がモネロを分析し、容疑者を特定したのは初めてだった。
今回、各府県警の支援のため、4月に発足した警察庁サイバー特捜部が8月から捜査に加入。解析力は高度化し、電子鑑識(デジタルフォレンジック)で、押収した端末から犯行に関わるメッセージを復元したり、暗号通貨に換える流れを特定する役割を担った。
犯罪者御用達の暗号資産でも逃れられない警察の追跡に、トクリュウも戦々恐々としているはずだが、元警視庁刑事で犯罪心理学者の北芝健氏は言う。
「警察はトクリュウの犯行が起きれば、誰がバックについているのかも含めて把握します。しかし、あまりにも各地で次々と事件が発生するため、圧倒的に捜査員の人数が足らず、手が回らないのが現状です」
それを好機とばかりに、犯罪者はせっせとマネーロンダリングに勤しんでいるのだ。
(つづく)