トランプ氏も黙る「氷の女」首席補佐官に抜擢のワイルズ氏が試される手腕

 米大統領選では激戦州7州全てで勝利を収め、選挙人312人を獲得するという圧倒的な結果を残したトランプ氏。今回の選挙では黒人男性やヒスパニック層をいかに取り込むかが争点となっていたが、その裏方として陣頭指揮を執りトランプ氏を当選に導いたのが、来年1月の政権発足で大統領首席補佐官に任命されることが決まった、通称「Ice Lady(氷の女)」こと、スーザン・ワイルズ氏だ。

 首席補佐官とは、ホワイトハウスにおいて政府内の調整や議会への対応、加えて大統領のスケジュール管理などを担当する。

 11月7日、ワイルズ氏の起用を発表したトランプ氏は声明で「アメリカの歴史上、最も偉大な政治的勝利の1つを得るために助けてくれた。ワイルズ氏はタフで頭がよく、革新的な人物で広く尊敬されている。アメリカを再び偉大にするために働いてくれるだろう」と称賛。ただ、前日6日の勝利宣言の際には、ワイルズ氏が促されたスピーチを断る場面もあり、トランプ氏も「彼女は裏方でいたいようだ」と苦笑いする一幕もあった。

 外報部デスクが解説する。

「ワイルズ氏は現在67歳。父は元アメリカンフットボール選手で著名解説者のパット・サマーオール氏で、メリーランド大学カレッジパーク校を卒業後、1979年に下院議員のアシスタントとして働き始め、翌80年、レーガン陣営の選挙運動にスケジューラーとして参加。それが政治の世界にかかわり始めたスタートだったとされています。トランプ氏との関係は、2016年大統領選挙でフロリダ州におけるトランプ陣営の作戦指揮を担当したことがきっかけで、20年の選挙にも参加し、今回の選挙でも選挙対策本部長として選挙戦全体を指揮した。トランプ氏の行き過ぎた言動についても唯一、ピシャっとものが言える人物で、同氏も彼女の警告には耳を傾けると言われます。冷徹で冷静沈着であることから『氷の女』とも呼ばれるわけですが、2人の間に相当な信頼関係が構築されていることは間違いないでしょう」

 ワイルズ氏は陣営で裏方に徹してきたため、メディアや公の場に登場することはほとんどなかったが、今回の大統領首席補佐官就任で、今後は表舞台に出てくる場面も多くなるはずだ。

「大統領首席補佐官というのは、いわば大統領の側近中の側近。ただ、移り気で感情的なトランプ氏は前政権の4年間で代行を含め3人の大統領首席補佐官を事実上の更迭、辞任させている。長年支えてきたとはいえ、起用はしたものの先行きについてはわかりません。加えてワイルズ氏自身、フロリダ州のロン・デサンティス氏を知事当選させ、16年と20年の2回にわたりトランプ陣営で選挙戦略を担当するなど、選挙戦略の専門家であることは事実ですが、補佐官となると立場は異なる。1期目同様、ホワイトハウス内での権力闘争が起こる可能性も否定できないため、それをどう諫めていくかもワイルズ氏の手腕にかかってくることになるでしょう」(同)

 ウクライナやイスラエルに端を発する中東問題。また北朝鮮や中国VS台湾問題等々、避けて通れない問題が山積する国際情勢。さらに「不法移民を100万人追い出す」と公言しているトランプ氏は、まずは内政に手を付けるはずだ。むろん日本に対してさまざまな要求を突きつけてくる可能性もあり、日本政府としてもワイルズ・シフトを敷く必要が出てくるだろう。いずれにせよ、トランプ政権で、このタフネゴシエーターがキーパーソンになることは間違いなさそうだ。

(灯倫太郎)

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