テレビ史に残る「戦慄シーンをナマ実況」(2)“殺害中”を生中継「大変なことが起きている」

 純金のペーパー商法で社会問題化していた、豊田商事・永野一男会長刺殺事件。昭和に限らず時代を超えてトップクラスの衝撃中継と言えた。マグナム氏はその恐怖を語る。

「会長が住むマンションの玄関前に取材陣が20~30 人は集まっていた。そこの中にヤクザっぽい男が2人入ってきて、カメラマンが持っていたパイプ椅子で永野会長の部屋のドアをガンガンと叩きだし、ドアが開かないとわかったら窓枠の格子をバキッと手際よく外し、ガラスを蹴とばし室内に侵入。中で暴れている罵声や音もまる聞こえなわけやんか。記者は『何してるんですか?』とも聞かないし、『大変なことが起きてます』と実況することしかできない。何分かして『ワシがやったんや』と犯人が出てくるわけだけど。何で止めへんのや」

 しかし、あの場面で凶行を止めに入るのはかなりの勇気がいると亀和田氏は言う。

「この事件、不思議なことが多くて総額2000億円も騙し取っていたのに会長の部屋は公団住宅みたいな庶民的な慎ましいマンションだった。そのギャップに驚きましたし、会長はやられるがままに殺されてしまった。反社的な人間をボディガードに付けるなり、側近を付けることはできたはずなんですけどね」

 犯行前日に、兵庫県警は外為法違反で永野のマンションを捜索。そのことで、永野が自宅マンションにいることが世間に知れ渡ってしまったのだ。事前に、建物の入り口に、警備を配しておけば、犯行は未然に防げたハズだったのに。

 昭和の立てこもり事件と言えば、70年11月25日に起きた「三島事件」を思い浮かべる人は多いだろう。亀和田氏は当時のテレビ中継の様子を語る。

「まず『作家の三島由紀夫が市ヶ谷駐屯地で東部方面総監を人質に立てこもった』という速報が流れて。三島はバルコニーに出てきて自衛隊員に決起しようと呼びかけてました。拡声器も使わないで地声。でも三島に声援を送る自衛隊員は一人もおらず『バカヤロー、お前、頭おかしいだろう!』と罵るんですよ。『清聴せい!』と言っても隊員たちはまったく聞く耳持たないんです。現場の支持ゼロ。その後、三島は切腹自殺して介錯されるわけですけど、三島の生首と首なし胴体の写真が朝日新聞とアサヒグラフに載ったんです。のちに『いくら報道とはいえ、こんなものを載せていいのか』と批判された」

 享年45、あまりにも衝撃的な最期だった。

(つづく)

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