9月5日~11日の1週間にAsageiBIZで配信し、多くのアクセスを集めた上位12記事を好評につき再録する。地球温暖化による台風や豪雨被害は、東アジア全域に及んでいる。7月末に集中豪雨に見舞われた北朝鮮では、川の氾濫により多くの住民が孤立。防災対策が疎かだったとして、金正恩総書記を憤慨させた。そして怒りの矛先は、関係機関の責任者に向けられた、というのだが…。(初公開は9月6日)
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7月下旬、北朝鮮を襲った台風による大規模災害。鴨緑江流域の慈江道や平安北道では河川の氾濫により、多数の民家や農地が浸水。毎度のことながら朝鮮中央通信は被害情報について詳細は伝えていないものの、被災者のうち約1万3000人が平壌に避難したと報道。しかし、一部韓国メディアが平安北道や慈江道での洪水による死者数は最大で2500人と伝え、これに金正恩総書記は「何を根拠にしているんだ!」と怒りをあらわにし否定したとも伝えられる。
そんな中、朝鮮日報系のTV朝鮮が9月3日、韓国政府当局者からの情報として「被災地の幹部20~30人がいっぺんに銃殺され、その中には更迭された姜峯訓党責任書記が含まれている可能性がある」との衝撃的ニュースを報じ波紋が広がった。
さらに翌4日には、韓国の聯合ニュースも国家情報院(国情院)筋の談話として、正恩氏が洪水被害を受けた被災地の幹部らの責任を問い、その多数を処刑した可能性がある、との記事を掲載。TV朝鮮の報道に追随したことで、にわかに“大量処刑”が信ぴょう性を帯びることになった。
確かに正恩氏は、7月29~30日に被災地で開いた党政治局非常拡大会議で、「党と国家が付与した責任ある職務の遂行を甚だしく怠ったことで、容認できない人命の被害まで発生させた。災害防止事業に漫然と向き合った結果、あっけなく災難を被るという悪い結果を招いた」と、今回の被害拡大は担当者らの職務怠慢が引き起こした結果だとして、責任者を厳格処罰する方針を示していた。
加えて韓国メディアの報道の通り、処刑された幹部の中に慈江道の労働党責任秘書の姜氏が含まれていたとなれば、正恩氏の怒りが想像以上だったことは想像に難くない。
「なぜなら、姜氏は軍需品生産に必要な機械や資材が集結する北朝鮮有数の軍需地帯である慈江道で、党軍需工業部の副部長職にあり、その分野の専門家としても知られる人物。ロシアのプーチン大統領の訪朝以降、ロシアへの武器弾薬提供が加速する中、同地域の軍需工場では昼夜休まずフル稼働でロシアへ販売する武器弾薬が製造されていたと伝えられますからね。映像を見る限り、今回の大規模水害で、相当な被害受けたはず。なので、一部専門家の間からは、正恩氏は人命云々ではなく、軍需工場が壊滅的被害を受けた怒りから、責任者を大量処刑したのではないか、との声もあがっています」(北朝鮮ウォッチャー)
報道によれば、正恩氏は先の大会議で、日本の警察庁長官にあたる社会安全相も更迭。被災地の責任者たちも次々と更迭されたと伝えられる。
「TV朝鮮は、これらの幹部が銃殺されたのは8月末だったと報じています。ただし不思議なのは、7月30日の現地視察後の会議で『容認できない人命の被害まで発生させた』と発言した正恩氏が、3日後の8月2日、再度視察した際に『被害が最も大きかった新義州地区でさえ、人命被害が一件も出なかったことは、奇跡としか表現できない』といとも簡単に前言を翻したことです。北朝鮮が被害状況について表に出さないことは、なにも珍しいことではありませんが、まさか『人命の被害まで発生させた』と発言したその口から、『人命被害は一件もなかった』との言葉が飛び出すとは…。後者の発言は武器弾薬を販売し大量の外貨を得ている“お得意様”のロシアに対し安心安全をアピールするためとの見方もできますが、今後、おそらく国情院周辺から実際に処刑された幹部たちの名前が出てくるでしょうから、そんな人選からも被災地の現状と正恩氏の怒りの深さが推察できるかもしれません」(同)
謎のベールに包まれる独裁国家、北朝鮮。はたして、その被害実態と大量処刑の真相とは…。
(灯倫太郎)