【中国】習近平が押し進める「人工降雨」で猛暑対策のはずが暴風雨になった大誤算

 地球温暖化の影響で、世界各地が亜熱帯と化していく中、中国政府が大量の資金を投入し“気候改変プログラム”の開発に取り組み始めたのは、2012年のこと。

 中国政府は25年までにこのプログラムの対象地域を550万平方キロメートルに拡大するとの方針を明らかにしているが、550万平方キメートルといえば、その面積は中国国土の5割超にあたる。それでも習近平国家主席が掲げる旗印のもと、国を挙げた「人工降雨」作業が各地で行われ始めている。

 人工的に雨を降らせるには、雲の中にヨウ化銀を散布し周囲の小さな水の粒を集め、それを大きな雨粒に成長させ雨を降らせる、通称「クラウドシーデイング」(雲の種まき)と呼ばれる技術が用いられるが、これは1960年代に米国の化学者によって発明されたものだ。

 だが、ベトナム戦争で米軍がベトナム軍の動きを封じる目的でこの作戦を展開。後にそれが大きな問題となり、1978年には「軍事的又はその他の敵対的な気候改変技術の使用禁止に関する国際条約」が発効され、中国も2005年、この条約を批准している。

「しかし軍事目的以外の使用については細かい規制がないことから、中国ではこの技術を用いて乾燥地帯に雨を降らせれば耕作地が拡大できるとして、早くからこの技術に着目していました。ただ課題も多く、その一つが人体や環境に与える影響。というのも、ヨウ化銀には弱いものの毒性があり、大規模に利用した場合の影響はまったくの未知数。しかも砂漠国家であるアラブ首長国連邦をはじめ、イスラエルやタイなど50カ国以上で人工降雨作業が進めてはいますが、1回当たりのコストが約1億円とバカにならない。そのため研究者の間でも、副作用がはっきりしない段階でこのまま『壮大な社会実験』を続けていいのかという指摘が根強いんです」(中国問題に詳しいジャーナリスト)

 そんな中、9月2日、中国の重慶で人工降雨作業を行った後、中型級台風並みの暴風雨が襲って被害が発生したと、4日付の中国・極目新聞や瀟湘晨報などが報じ、国内外から驚きと不安の声が上がっている。

 報道によれば、ここ数週、重慶地域における日中の最高気温が42度まで上昇、作物に甚大は被害が出た。そこで重慶市が2日午後から翌日未明まで人工降雨作業を行ったという。ところがその後、重慶市の20区県で突風と激しい雨が観測され、重慶気象観測所の発表によると最大風速は秒速34.4メートル。多くの街路樹が倒れ屋外広告看板などが飛ばされるなど、多くの被害事例が報告されたという。

「現地の情報によれば、人工降雨により42度あった気温が10度ほど下がったようなんですが、代わりに強風と風雨だけでなく、湿度の変化のためなのか、都市全体がまるで蒸し風呂のような暑さに覆われ、健康被害を訴える市民も続出したようです」(同)

 しかし重慶気象庁では、人工降雨による異常気候発生を否定。「強風は自然対流熱によって発生するもの。突風や雷と人工降雨は直接的な因果関係はない」として、今後も政府が推進する人工降雨は継続されることになるだろうとしている。

 ただ、実は四川省でも2022年9月、同様に人工降雨の影響と思われる豪雨が発生。人工的に雨を降らせることで逆に環境を破壊してしまうのではないのか、という声が上がったこともあった。

「これは、四川省が8月25日から29日にかけて行った人工降雨で、2機の大型ドローンを使い6000平方キロメートルに及ぶ範囲にヨウ化銀を雨雲の中に散布したのですが、結果、期待通り雨は降ったものの、その日以来、連日豪雨が続き洪水が発生するなど、想定外の被害に見舞われることになってしまったんです」(同)

 それでも人工降雨を推し進めたい中国政府は「因果関係は確認できない」「使用されるヨウ化銀の量はわずかであり、人体などに害はない」と足踏みするつもりはないようだ。とはいえ、1回に散布されるヨウ化銀は微量かもしれないが、繰り返し同じエリアで使用されれば、果たして安全な基準値を維持できるものなのか。環境や人命に直結する人工の雨だからこそ、検証や分析を怠るべきではないのだ。

(灯倫太郎)

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