山中伊知郎「あなたの知らない“原価”の世界」 卸値2倍でもイスラム圏インバウンドでごっそり丸儲け!

【今回のお値段「シャトーブリアン」:仕入れ値 10キロ20万〜30万円以上(焼肉店メニュー価格100グラム1万円以上)】

 日本中に「インバウンド旋風」が吹き荒れる昨今、焼肉業界もその例外ではない。「和牛」のおいしさは世界的に有名なことから、それ目当ての外国人観光客が急増。焼肉店でも価格爆上がり状態だとか。そんな中、イスラム教徒の客をターゲットにした、「ハラル和牛」を売り物にする店も出てきているらしい。

「ハラルフード」とはイスラム教の戒律で食べるのを許されたもの、という意味。多くの日本人には、豚肉や豚のエキスやアルコールが含まれた調味料の使用がタブー、くらいの認識だが、肉の場合、処理には専用の資格を持ったイスラム教徒が当たらなくてはならない、ナイフを使用し、一気に血抜きをしなければならない、イスラムの教えに精通した人物がお祈りをしたものでなくてはならない、など、細かい規定がある。そのため、「ハラル肉」は卸値が通常の肉の2倍近いとも。それでもあえて仕入れているという焼肉店オーナーに理由を聞くと、

「需要が多いからです。ウチの店では、特にインドネシア、マレーシアなど東南アジアのイスラム圏のお客さんが来ます。皆さん、和牛が一番の目的で、値段が少々高くても、平気で注文されますね。欧米、オーストラリアなどのお客さんもいて、日本人はほぼ皆無です。まさに円安のためでしょう」

 仕入れ値としては、宮崎牛などブランド黒毛和牛の「ハラル肉」なら、10キロで少なくとも20万~30万円以上はして、最高級のシャトーブリアンはそのうち700グラム前後しかとれない。カルビ、ローズ、ハラミなど、肉として出せるのが5~6キロ、残りはクッパやカレーの具に使ったりする。それでシャトーブリアンなら店で100グラム1万円以上、カルビやロースでも100グラム5000円以上で出しても注文は後を絶たないらしい。

 ハラル認証を受けるためには、所定の認証団体で手続きをして、認証料として年間50万円前後を支払わなくてはならないが、その分、安心して客は来る上に、しばしばその認証団体が客を紹介してくれたりする。だから認証は絶対受けておいた方が得とか。前出・焼肉店オーナーによれば、

「ごく最近ですが、店の中に礼拝用のスペースを作ったところもあるみたいです。イスラム教は1日5回、メッカに向かって礼拝をするのはよく知られていますが、そうしたお祈り目的で来店したお客さんが、そのまま焼肉を食べて帰る、ってことが多くて、売り上げに大いに貢献しているらしいですよ」

 焼肉に限らず、ここしばらくは「ハラル」を売りものにする店、礼拝スペースを作る店はどんどん増えていきそうだ。

山中伊知郎(やまなか・いちろう)40年前、インドからパキスタン、イラン、トルコとイスラム圏を陸路で旅したことがある。ハラルフードは平気だったが、しばらくビールが飲めず、トルコに入ってビール飲み放題で生き返る思いがしたのを覚えている。