日本経済を低迷させている原因の一つは人手不足にある。そのため、海外から労働力をどんどん受け入れている。しかし、本当に日本人の働き手はいないのだろうか?
ある経済研究所の調査によると、日本のパートやアルバイトで働く人の多くが「お金は欲しいから、もっと働きたいのだけれど、働かないようにしている」という不可思議な実態を明らかにしています。
どうして働かないのかといえば、社会保険を払いたくないから。いや、社会保険は必要です。健康保険に老後の年金。しかしその保険料を払わなくても年金をあげます、健康保険もOKです、という仕組みが日本にはあるのです。対象は専業主婦(主夫)です。
専業主婦が働きに出ると、従業員101人以上の企業で年収106万円、100人以下の職場は年130万円までなら社会保険料、つまり、健康保険料や国民年金の保険料をみずから負担しなくていいのです。だからこの〝年収の壁〟に近づくと、働くのを我慢してしまうのです。
「ちょっと待ってくれ! うちの嫁は100万円も稼いでないけれど、国民年金を払わされているぞ」という人もいます。
そうなんです。専業主婦というのは、夫が大企業などの正社員で、厚生年金に入って働いている妻だけの特権。なので、自営業者や農家、小さな会社で厚生年金制度に加入していない会社員の妻などは、どんなに年収が低くても国民年金をきちんと毎月1万6980円(24年度の場合)を40年間も納めなければ、老後に満額の年間約80万円をもらえない仕組みなんです。
しかし、冒頭に記したように、今の日本経済の問題の一つは人手不足。それに近頃は少しは給料も上がった。まあ、物価はそれ以上に上がっているから生活は苦しいわけですが‥‥。
ちなみに東京都の場合、最低賃金は時間額1113円なので、年間約952時間働くと106万円の壁に到達します。もし1日5時間働いたとしたら190日で105万7350円。つまり、週5日働くと10カ月で106万円の壁に到達してしまうため、残りの2カ月間は働けません、ということになる。
そこで「人手不足で経済が回らない」となるのだが、仮にこの壁がなくなると、日本全体の経済効果は8・7兆円くらいプラスになり、税収は約8000億円増えるという試算もあるくらいです。
政府は、去年の10月から2年連続までは130万円の壁を突破しても一時的なものとして、扶養を外れない。つまり、社会保険料を自分で納めなくていい、という特別措置をしています。
そのためには、企業が「他の社員が辞めたりして人手が足りないので、この人は突発的に働いてもらっている一時的なものなんです」と、社会保険事務所に申告し、認めてもらうなどの手続きが必要です。
何かおかしくないでしょうか? ヘンテコな根本は、社会保険料を納めなくていいという人がいることからくる〝社会の歪み〟だと思うのです。
これらお金を納めなくていい人を年金制度では「第3号被保険者」といって、日本では770万人くらいいます。仮にこの770万人が毎月約1万7000円を納めたら、年間約1兆3000億円も年金財政は潤います。しかも壁がなくなれば、みんなもっと働くでしょうし、少しでも給料を上げてほしいという気持ちも強くなり、自然と賃金も上がると思うのです。
実際は、国民年金でなく厚生年金になるわけで、ちょっといろんな問題があるのですが、それはまた別の機会に書きたいと思います。
間違いないことは、人手不足は大幅に改善し、日本の経済にはプラス、みんなの懐もプラス、年金の不安は減り、国は税収も増えるということです。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。新刊「つみたてよりも個別株! 新NISA この10銘柄を買いなさい!」(扶桑社)が発売中。