トランプ氏の罪は「公務免責」最高裁判断で「法の上に立つ大統領」誕生の懸念

 大統領5期目に入ったプーチン大統領がロシアの小皇帝と呼ばれるなら、アメリカも負けじと“法に拘束されない”大統領が誕生しそうだとして、全米ばかりか世界中が大きな衝撃を受けている。

 在米ジャーナリストが解説する。

「20年のアメリカ大統領選でバイデン氏が勝利したが、トランプ氏は選挙で不正があったと主張。その裏で、副大統領や司法省高官に圧力をかけ、選挙結果をひっくり返すことに協力させようとした疑惑で起訴された。またトランプ支持者が連邦議会議事堂を襲撃したが、それをツイートで煽った疑惑もある。今回、最高裁は、これらが大統領在任中の公的行為なら“免責特権”が適用され、刑事責任は問われないと判断しているのです」

 では、この裁判は今後どう動くのか。先のジャーナリストが解説する。

「最高裁の判断を受け事件は連邦地裁に審判が差し戻された。つまり今後は地裁で吟味され最終的結論が出る。しかし問題は、この地裁審理には膨大な時間がかかるのが必至で、秋の大統領選までに結論を出すのは無理。ということは、本来なら大統領選前に審判が下って、それに基づいて国民が次期大統領を選ぶという図式が崩れることになる。トランプ氏には有利な展開だ」

 共和党関係者も言う。

「6月27日のテレビ討論でバイデン大統領はトランプ氏にボロ負けした。それに加えて、議会乱入事件や選挙結果転覆疑惑の公判が遅れるということは、トランプ氏は大統領選で一気に有利になる。そして大統領に就いてしまえば司法省を動かして起訴そのものを取り下げることも十分考えられる」

 アメリカの弁護士の1人はこう懸念する。

「この最高裁の判断をもってすれば、アメリカの大統領はアメリカの法律では何も規制されない、やりたい放題の王様を認めるということにもなる。例えば大統領選で負けても任期中なら軍を指揮してクーデターで新大統領を引きずり降ろしても罪に問われない可能性さえ出てくる。そうなると建前は民主国家でも実態は専制国家、北朝鮮やロシアと何ら変わりはない。法律など、くそくらえになってしまう危機だ」

 高齢のため苦悩する現職大統領、その現職と大統領選で戦おうという前大統領は、法より上に立つ「王様」を目指す気配だ。混迷のアメリカはどこに向かおうとしているのか。

(田村建光)

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