北朝鮮で暮らす男性に科せられた兵役期間は、おおよそ8年。女性にも約5年間の兵役が科せられているが、北朝鮮は世界でもまれにみる「男尊女卑」の国として知られ、軍隊では女性に対する性的暴行が横行。しかもその大半は黙認されているとの情報もある。
「北朝鮮における父権は絶対。現在も家庭内で父親による暴力が横行し、そのほとんどが報告されないといわれます。その男尊女卑の考え方が、そのまま軍においてもまかり通っていて、密室化した特殊な空間の中で、それがよりエスカレートしているとも伝えられていました」(北朝鮮事情に詳しいジャーナリスト)
ところが、そんな「父権一辺倒」だった北朝鮮で近年、ある変化が起こり始めているという。それが、北朝鮮労働党内での女性幹部らによる躍進だ。
7月2日付けの労働党機関紙「労働新聞」によれば、北朝鮮では党中央委員会の会議で、党部長や各委員など委員会の核となる職務幹部の人事を断行。今回の人事では、古株の男性勤労団体部長が解任され、朝鮮社会主義女性同盟(女盟)中央委員会委員長が代わって任命されたと報じている。
「北朝鮮における勤労団体部の役割は、女盟や青年同盟、朝鮮農業勤労者同盟(農勤盟)などの勤労団体を指導する、いわば党の核心部署。北朝鮮で暮らす人々は、生涯のうちで必ず一度は、これら団体の一つに所属しなければなりません。そんなこともあり、これまで党部長に女性が任命された例は、金正日氏の妹、金敬姫軽工業部長ほか数名あったものの極めて異例で、多くは青年同盟か職盟出身者がその任に就いてきた。特に今回、キム・ジョンスン氏という女性が抜擢された核心部署長という職務は、北朝鮮内部の思想と結束を担当する部署で、党内部でも最重要ポストと考えていい。何をもって金正恩総書記がこの女性を大抜擢したのかはわかりませんが、男尊女卑の考え方が根強い北朝鮮においては画期的な出来事と言えます」(同)
この異例人事の理由について韓国メディアでは、女性の地位の高さを印象づけるため、つまり正恩氏が公の場に登場させている娘・ジュエ氏を「後継者」として刷り込むためとの報道もある。
「確かに北朝鮮の国営放送でも、ここ最近はジュエ氏の言動をよりアピールする機会が増えている。例えばジュエ氏が公式席上で着用していた腕の部分が透けて見えるシースルーのワンピースブラウスを引き合いに出し、高位層の子女を中心に、このジュエ氏の『シースルールック』が流行しているなどと報じていますからね。おそらくは、まだ11歳と言われる娘を前面に出すことで、より若い世代の重要性を強調し、いわゆる『MZ世代(20代~30代)』の民意を取り込もうという狙いもある。いずれにせよ、ジュエ氏を後継者に据える準備が着々と進んでいるということでしょうが、当然、内部で反発も生まれるでしょう」(同)
愛する娘のためなら男尊女卑の国民性をひっくり返してまで労働党人事に手を突っ込む正恩氏だが、それにより弾き出される男性幹部たちの胸の内も気になるところだ。
(灯倫太郎)