「蜜月」日米首脳に温度差「日本製鉄のUSスチール買収問題」を中国が攻撃材料に

 4月10日(日本時間11日)にバイデン大統領と会談し、防衛協力などさまざまな連携強化を確認した岸田首相。ただ、事前から会談の目玉は日本がイギリスとイタリアとの間で進めている次期戦闘機開発とこれの第三国への輸出解禁、当のアメリカとの間では主に対中国を念頭に置いた安全保障政策の見直しにあるとされていた。

 なにやら安倍元首相が掲げていた「戦後レジームからの脱却」を思わせるような日米関係の大転換だが、一方で個別の案件も話し合われたようだ。会談後の共同記者会見で岸田首相は、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収に触れ「日米両国にとって良い話し合いになることを期待している。法に基づき適正に手続きが進められる」と言及。バイデン大統領もこれに応え、買収に反対する労組の意向を踏まえながら「私は米労働者への私の約束を守り続ける」と述べている。

「経済安全保障の第一人者である甘利明前幹事長は、この問題を“政争の具”にさせないためにも日本政府は口を挟むべきでないとの慎重論を唱えていました。実際、民間の話なので本来は政府が口出しする問題ではありませんが、日本製鉄が昨年末にこの買収計画を公表したところ、アメリカファーストのトランプ前大統領が『断固反対』の立場を表明。するとバイデン大統領も、アメリカ鉄鋼労組の票欲しさに、異例の政治介入に言及したのです。アメリカ大統領選挙前の買収話に『悪いタイミング』との見立てがありましたが、たしかに民間の取引を越えて“政治マター”になっている現実があります」(経済ジャーナリスト)

 そんな蜜月の日米関係の間に生まれた隙を前に、黙っていないのが“新冷戦”の相手・中国だ。

「中国共産党系の英字紙チャイナ・デイリーが民間への政治介入を問題視。アメリカ保護主義の象徴として批判しています。中国にしてみれば、ファーウェイの締め出しに始まり、最近はTikTokを使用禁止にできる法案が米下院で可決されています。さらに今回の日本製鉄のUSスチール買収計画に介入するとなれば、『自由貿易の擁護者のフリをしたアメリカが経済グローバル化にとって最大の脅威になっている』という主張も成り立ちますからね」(同)

 中国の鉄鋼生産は10億トンを超え、23年まで4年連続で世界ナンバーワンとなっている。だからUSスチール買収話で日米の足並みが乱れると、漁夫の利は中国に落ちてくる。その意味でも、この問題は攪乱するのに最適。USスチール買収問題はアメリカ大統領選挙の行方だけでなく、米中経済冷戦を巡るホットイシューにまで駆り出されつつある。

(猫間滋)

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