さいたま市が申請を見送った埼玉高速鉄道「延伸計画」は本当に必要なのか

 今から23年前の2001年3月28日に開業した、東京都のほぼ北端に位置する赤羽岩淵と浦和美園の14.6㎞の区間を結ぶ埼玉高速鉄道。埼玉県や川口市、さいたま市などが出資する第三セクター鉄道で、02年開催の日韓サッカーW杯の会場、埼玉スタジアムへのアクセスのため、当初の計画より約5年工期が前倒しで開業した。

 それまで“陸の孤島”だった地域を結ぶ路線は、東京メトロの南北線(目黒―赤羽岩淵)をはじめ、東急線や相模鉄道との相互運転を行い、現在は神奈川県内の日吉や新横浜、海老名などにも1本で行けるように。これにより首都圏でも屈指の人気路線となり、沿線は新たな住宅地として一気に開発が進んだ。

 さらにこの路線には、浦和美園と東武アーバンパークラインの岩槻の7.2㎞を結ぶ計画がある。だが、以前から23年度内に浦和美園―岩槻の延伸工事の要請を正式に行うとしていたさいたま市は、今年1月になって申請を断念したことを発表している。

「国と県、市が3分の1ずつ負担する都市鉄道等利便増進法での延伸開業を検討していましたが、建設費用の試算額が当初の見積もり860億円から1300億円と1.5倍に膨れ上がっていたためです」(鉄道ジャーナリスト)

 資材や人件費の高騰がその理由で、さいたま市の清水勇人市長は2月の定例会見で「延伸を断念したわけではない」とコメント。しかし、市民からは延伸反対の声も上がっている。

「税金を投入することになるわけですから、地元としては当然の反応です。延伸が計画された岩槻周辺は、現状でも通勤・通学に不便というほどではないんです。しかも、1.5倍というのは現時点での見積もりに過ぎず、今後さらに膨らむ可能性も否定できません。そうなれば方針を転換して白紙撤回なんて事態もありうるでしょう」(同)

 一方、埼玉県の大野元裕知事は「可能な限り早期実現に向けて最大限の協力をする」と述べており、両者の間で微妙な温度差も感じる。延伸工事が正式決定すれば埼玉県のさらなる発展が期待できるだろうし、都心30㎞圏の岩槻から乗り換えなしの1本で行けるようになれば便利なのは間違いないが…。

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