3月11日に閉幕した中国の国会に相当するとされる全国人民代表大会(全人代)。今回の全人代では、国内総生産(GDP)の成長率目標を「5%前後」と設定した政府活動報告などを盛り込んだ24年度の予算案が採択・承認されたが、1993年から定例化され30年以上続いてきた閉幕後の首相会見が突如取りやめになったことで、様々な憶測が広がっている。全国紙国際部記者が語る。
「この会見は、首相が1年に一度、海外も含めたメディアに直接対応する場として、いわば『全人代のクライマックス』という位置づけにあるため、中止通達にはメディア関係者の間にも動揺が走ったようです。政府は首相会見の中止理由を、このところ閣僚の会見、ぶら下がり機会の増えているため、改めて会見する必要はないと説明をしている。しかし端的に言えば、先が見えない経済状況の中、記者たちから不都合な質問をされたくないからでしょう。ただ、そもそも全人代自体、習近平政権の政策を追認するだけの『ゴム印』とされていますし、会見も指名される記者、質問内容が事前に決まっている出来レース的色合いが極めて濃いもの。にもかかわらず、それすら中止にしなければならなかったことに習近平政権の末期的な衰退が見え隠れしますね」
驚くべきは首相の会見中止だけではない。実は、中国では5年に一度、共産党が経済政策の方向性を示す最も重要な「党中央委員会第3回全体会議(3中全会)」が開かれるのだが、5年目にあたる昨年も開催されず、現時点で開催のメドすら立っていないというのである。
「先に述べたように『全人代』はあくまでも、習近平政権の政策を追認するだけの『ゴム印』。実質的に重も重要なのが3中全会なんです。ではなぜ3中全会が開かれないのか。理由については、外相の後任など重要人事が決まっていないから等々、憶測もありますが、やはり肝心の経済政策が決まっていないからに尽きるのではないでしょうか」(同)
中国経済は22年の暮れの「ゼロコロナ」解除に伴い、翌23年には反動増の兆しを見せていた。さらに、政府による1兆元(約20兆円)規模の特別国債発行が決まり、それが景気を下支えたことで、結果23年の実質成長率は5.2%と習政権が掲げてきた「5%前後」の目標をクリアしていた。
「ところが、GDP(国内総生産)の3割を占める不動産の低迷が長期化し、個人消費が振るわなくなった。そこで政府は住宅ローン金利の引き下げや、銀行に不動産デベロッパー向け融資を行うよう支持するなどテコ入れ策を高じたものの、不動産のバブル崩壊を止めることはできなかった。家計資産の7割が不動産と言われる中国で、住宅需要の低下は、まさに命取り。しかも総人口減少が明らかになっているため、今後ますます住宅を購入する若年世代が減ることは必至です。本来、そういった経済立て直しのビジョンが話し合われる場が3中全会であり、その政策を追認場するのが、全人代。つまり、3中全会も開けず、首相会見も出来ないのは、解決するビジョンがないからです」(同)
そんな状況を受け、ゴールドマン・サックス資産運用部の最高投資責任者が「中国に投資すべきではない」と発言したとの報道もあったが、ウォール街金融資本の代表格で長年、対中投資に血眼になってきたGSが中国投資に見切りを付けるとなれば、一大事。波紋は広がるばかりだ。
(灯倫太郎)