米サウスカロライナ州沖に飛ばされた中国製の気球が米軍機により撃墜されたのは昨年2月のことだった。中国側は「民間の気象研究用が迷い込んだ」と主張したが、アメリカはこの気球を「スパイ活動目的」であると断定。この問題を契機に、両国の関係がさらに険悪となったことは記憶に新しい。
ところが、そんな騒ぎなどなかったかのごとく、中国はいまだに堂々と「気球」を飛ばしているという。
台湾周辺の上空では昨年12月以降、なんと100機近い中国製の気球が確認されているというのである。台湾の事情に詳しいジャーナリストが解説する。
「台湾国防部は、12月7日から2月17日にかけて台湾上空に現れた気球87機の飛行経路を追跡しました。その結果、25機が台湾領空を侵犯し、本島上空を飛行していたことが確認されたとしています。大きさ等についての具体的な発表は控えているもの、これだけの数の気球を飛ばすからには、何らかの意図があると見て不思議ではないでしょう。ただ、中国との緊張関係が続く中、国防部としても憶測で声明は出せないため、『台湾領空に入る気球はすべて監視し、国家安全保障を危険にさらす敵の脅威に関しては、いかなるものでも検証をおこない、しかるべく対処する』と述べるに留まっています。政府内には『撃ち落とすべき』という声もありますが、台湾側が先に武力行使したとなれば、中国側の思うつぼでもある。そんなこともあり、台湾国防部内でも判断に苦慮しているようです」
スパイ気球であれば、台湾近海にいる中国人民解放軍(PLA)の戦艦から打ち上げられている可能性が高いという。では、その目的は何なのか。
「2月17日の台湾の『中国時報』では、中国がこの謎の気球を飛ばし続ける理由について、台湾の防空システムをかく乱するためだと分析しています。しかし、台湾政府は依然として、軍事目的の気球という発表はしていません」(前出・ジャーナリスト)
台湾だけでなく、かつては日本の上空でも目撃された中国製気球。米国防省の情報機関は、これらのスパイ気球の追跡手法を開発しているとされるが、1年前の撃墜騒ぎなどなかったかのように気球を飛ばし続ける隣国に対し、日本をはじめ、近隣諸国は、より強固な防御システムで臨む必要がありそうだ。
(灯倫太郎)