手作りかつらとつけまつげで外貨獲得、北朝鮮「人毛ビジネス」最前線

 2月3日(現地時間)、ロイター通信は、北朝鮮製のつけまつげが中国経由で世界中に販売され、外貨獲得にも貢献していると伝えた。中国当局の統計によると、23年上半期だけで、中国に輸出されたかつらやつけまつげなどの毛製品は日本円で約108億円にのぼるという。今や北朝鮮の主要産業とも言える“人毛ビジネス”について、国際ジャーナリストはこう解説する。

「北朝鮮では、基本的に女性が髪を伸ばすのは『社会主義にそぐわない』と理由で御法度とされています。国内調達が困難なため、北朝鮮は中国から人毛や人口繊維などの加工原料を輸入します。それを北朝鮮にある工場に持ち込み、手作業で加工して、完成品を中国に輸出。中国企業は商品を包装し、『中国製』として国内や韓国、日本などで販売しています」

 北朝鮮は06年の国連安全保障理事会の経済制裁で、石炭、石油、海産物、衣服などの輸出が禁止されている。しかし、毛髪製品は安保理制裁の対象品目ではなかった。

「もともと、かつらもつけまつげと同じように北朝鮮で製造され、中国に輸出していました。品質の高さには定評があり、90年代後半に金正日総書記の頭髪の“後退”が注目を集めた際、韓国国内では良質なかつらを使用していると噂されたこともあったんです」(前出・国際ジャーナリスト)

 しかし、世界的なコロナ禍の影響で、北朝鮮の外貨獲得ビジネスに大きな支障が出ていた。

「コロナ対策のために20年1月に国境を封鎖。北朝鮮のかつら工場も稼働を停止している状態だったので、供給がストップしました。中国のかつらの輸出量は世界最大規模だったこともあり、かつらの市場価格が高騰。中国国内でかつら事業に参入する企業もあったのですが、北朝鮮の工場よりも人件費が高く、品質も低下してしまい、頭を悩ませていました」(前出・国際ジャーナリスト)

 コロナ禍が明け、封鎖措置が緩和されたことで、昨年から北朝鮮と中国の間で本格的に貿易が再開。価格もコロナ前の水準に落ち着くと、中国に向けて、毛髪製品の輸出が急増したのだ。

「今年1月の最高人民会議で金正恩総書記が電力不足を解消するために、原子力発電所の建設を進める考えを発表しました。慢性的な電力不足に悩まされる北朝鮮にとって、日中は太陽光のもと、手作業でできるつけまつげやかつらは貴重な外貨獲得の手段。今後はさらなる事業拡大もあるかもしれません」(前出・国際ジャーナリスト)

 いつの間にか、日本の女性たちの間でも、北朝鮮発「中国製」のつけまつげがブームになっているかもしれない。

(風吹啓太)

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