今回の能登半島地震に目を向ければ、地震規模はマグニチュード7.6で、石川県の輪島市、志賀町で最大震度7を記録した。住民にとって最大の脅威となったのは、建物の大破・倒壊である。広範囲にわたった震度6強の揺れが、耐震化が十分でない古い木造住宅を軒並み倒壊させた。
「耐震基準はこれまで、81年と00年に改正されました。81年以前は旧耐震、以後を新耐震と呼び、旧耐震は震度5程度の地震で大きな被害を受けない、という基準で、能登半島地震で倒壊したのは、大半が旧耐震にあたる家屋だったようです」(一級建築士)
旧耐震基準の建物はかくも脆いのか。それはデータからも明らかだ。国土交通省住宅局が16年9月に発表した「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」の報告書によれば、熊本地震で最大被害を受けた同県益城町の、木造建築家屋の建築時期別の被害状況は次のように分かれている。
81年5月までの旧耐震基準で倒壊・大破した家屋の割合が28.2%。それに対して新耐震基準が8.7%、2000年基準に至ってはわずか2.2%だ。つまり、「81年耐震基準」であれば、9割方、大型地震での自宅倒壊の危険は免れる、とみることができる。ただし注意すべきは、それがあくまでも「1度の大地震」に限った話であることだ。
元NHK防災担当記者で防災に詳しい江戸川大学の隈本邦彦特任教授によれば、
「耐震基準は、あくまで最低基準で、新耐震基準でも『震度6~7程度の地震で倒壊・大破しない』というレベル。要するに、どんな揺れが来ても『まったく損傷しない』というわけではなく、壁にひびが入ったり、柱が少し傾くなどの被害は許容した設計なのです。しかも最近では、技術の進歩で、基準ギリギリで設計することが可能になっています。もちろんお金をかければいくらでも柱を太くしたり壁を増やしたりできますが、なるべく安く作れるものならその方がいいと考える持ち主も多い。そして耐震基準は、あくまで1度の地震に対するもの。複数回の強い揺れに対しては保証の限りではありません。熊本地震や能登半島地震でも前震、本震、余震など複数回の強い揺れで倒壊した家もあったと考えられます」
2000年基準は地盤調査がほぼ義務化され、さらに柱などに金具の取り付けなどが課される、より強化された建築基準となるが、いずれにせよダメージが蓄積されていくのは道理だ。大規模な連動型地震が起きた時には‥‥。南海トラフ地震から東南海地震、東海地震、首都直下型と地震の連鎖が起これば、新耐震基準以降の建物でも、無事である保証はなきに等しいと言えるだろう。
まして大地震の連動発生は、先の例のように1年後とは限らない。仮に1週間後に襲われたら、補強工事をする暇などないのだ。
(つづく)