「ハマスのテロリストは残らず亡き者にする」
10月11日、イスラエルのネタニヤフ首相は怒りを露わにし、イスラム組織ハマスをせん滅させることを宣言。挙国一致政権を樹立して一掃に動きだしたが、国内では「歴史的な失敗」と糾弾する声も上がっている。惨劇の裏側では、政治的な思惑が蠢いていた‥‥。
小国ながら欧米も脅威と見る精強な軍を持つイスラエル。そのあまりに甚大な被害が、世界に衝撃を与えている。
特に同国が独自開発した防空ミサイルシステム「アイアンドーム」は、これまで鉄壁の守りを誇ってきたが、ハマスのロケット弾による被害は大きかった。軍事評論家の潮匡人氏はこう説明する。
「自動的に迎撃できるので、安心していた部分もあるのでしょう。現段階で原因はわかりませんが、飽和攻撃(防空能力を上回る数の攻撃)を受けた際、世界最強と言われるアイアンドームでも迎撃できないことが明らかになった。ということは、日本に対して北朝鮮や中国が同じことをした場合、ハマスと違って核を持っているので、もっとひどい事態になることが想定されるのです」
また、イスラエルは中東最強とされる情報機関を擁し、これまで対アラブ戦争で勝利を重ねてきた。にもかかわらず、対外情報機関のモサドが事前に察知できなかったことが批判されている。この点、モサドを率いていたタミル・パルド元長官に取材経験のある国際ジャーナリストの山田敏弘氏は懐疑的だ。
「イスラエルの諜報機関の能力に疑う余地はなく、予見していなかったわけがありません。パレスチナ人のスマホはハッキングして監視下に置いているし、カバーできないアナログの部分は盗聴器を仕掛けて情報を把握しています。実際、直後のガザ空爆で、ピンポイントでの幹部殺害を成功させています」
8月26日にはハマスの政治部門の副リーダーがレバノンの親ヒズボラのメディアに対し、「我々は全面戦争の準備をしている」とコメントしているだけに、イスラエルの情報機関が知らないわけがないという。
それならば、なぜハマスの奇襲攻撃は成功したのか。その背景について山田氏は続ける。
「昨年12月に発足したネタニヤフ政権は、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区の併合を主張する極右政党と手を組み、強硬な対パレスチナ政策を推し進め、反発の声も大きい。7月には『司法制度改革』関連法を可決させたが、汚職疑惑で公判中のネタニヤフ首相が裁判所の権限を弱める法律を通したと、抗議デモが拡大していた。内政が混乱する中、情報がうまく伝わらなかったのか‥‥。いずれにしろ、ハマスにつけいる隙を与えたのは確かです」
まさか汚職まみれとなってもトップの座にしがみつく〝首相の策略〟だったとは思えないが‥‥。すでにイスラエル軍は地上戦に向け30万人の予備兵を招集、戦局はドロ沼化することは避けられない状況だ。
*画像は戦車を奪取したハマス