イランが振り上げた拳を下ろせない「イスラエル報復攻撃の報復」に怯える“ジレンマ”

 昨年秋以降、中東ではイスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム主義組織ハマスとの間で戦闘が激化しているが、パレスチナ側の被害が深刻化するにつれ、ハマスとの共闘を宣言するレバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派などがイスラエルへの攻撃を強化。そういった組織をイランが支援していることで、戦況はイスラエルVSハマスから、イスラエルVSイラン勢力へと拡大している。

 そして、イスラエルが4月にシリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館を攻撃し、イラン革命防衛隊の幹部らが殺害されたことで、イランは史上初のイスラエルへの報復攻撃に出た。しかし、イランはイスラエルに向けドローンなどを発射したものの、それはイスラエルを破壊するというより、自分たちも黙ってはいないとイスラエルを牽制するメッセージとしての色が濃かった。また7月にはイランを訪問していたハマスの最高幹部ハニヤ氏が殺害され、イランは報復を宣言しているが、それから数週間経つものの動きがない。

 今日のイランは、大きな“ジレンマ”を抱えているに違いない。仮にイランが軍事的な報復措置に出れば、自らは有事にあると自認するイスラエルのネタニヤフ政権がさらなる軍事攻撃をイランに加える可能性が非常に高く、そうなればイランはイスラエルと本格的な戦争状態に陥る。イランは、自らがハマス化することを避けたいのが本音だ。

 また、イスラエルに報復措置を講じれば、米国などがイランに対する経済制裁を強化する可能性もあり、経済的困窮が深刻化するイランとしては難しい選択肢だ。

 一方、イランが振り上げた拳をなかなか下ろさない状況を、イスラエルと最前線で交戦するヒズボラやフーシ派など親イラン勢力はどう感じるだろうか。自らが反イスラエル闘争に尽力する中、その親玉であるイランが攻撃を受けるだけで何もしなければ、ヒズボラなどが不信感を強める可能性が高い。イランもその辺りを十分認識していると思われ、狭間で大きなジレンマを感じていることが想定されよう。

(北島豊)

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