最凶ヒグマOSO18「射殺の瞬間」(2)第2、第3のOSO18が出現する温床

 ところで、このヒグマがOSO18だと判明したのは偶然だった。先の釧路町役場職員が真相を明かす。

「駆除した役場の職員と被害が大きかった(DNA鑑定のルートがある)標茶町役場の担当者が、たまたま知り合いだったんです。だから、万が一のこともあるからと、標茶町を通じて道立総合研究機構にヒグマの頭の毛を提出して、DNA鑑定を依頼することになった。結果、8月18日の夜にOSO18だと判明したのです。もしもDNA鑑定を行わなかったら、地元の方々はいまだに消息不明となったOSO18の影に怯える日々が続いていたはず。特定できて本当によかったです」

 被害に悩まされてきた、標茶町役場の担当者も胸をなで下ろす。

「標茶町では牧草地に電子柵を設置し、捕獲するために罠を仕掛けたり、地元ハンターの方々に定期的に巡回をお願いするなど、様々な対策を行ってきた。今後、地元農家さんがOSO18の家畜被害を心配することなく営農できるようになりました」

 とはいえ、最凶のOSO18も数多くいるヒグマの1頭に過ぎない。ヒグマの生態について研究を続ける、北海道野生動物研究所・所長の門崎允昭氏は警鐘を鳴らす。

「ヒグマには人や家畜を襲う習性があり、OSO18が牛の襲撃を繰り返した牧草地一帯は、もともとヒグマの生息地だった。日本人が少子化で人口減少する一方、冬眠から目覚めたヒグマを一網打尽にする『春グマ駆除制度』も90年に廃止となり、以降、ヒグマの数は2倍近くも増加。しかも今回、駆除されたOSO18の頭には別のヒグマとケンカしてできた傷があり、衰弱していたという話もある。銃による駆除よりも捕獲・保護に重きを置く現状のヒグマ対策では、第2、第3のOSO18が出現するのは時間の問題でしょう」

 門崎氏によれば、ヒグマは学習能力が高いため、頻繁に威嚇射撃を行えば、そこが危険な場所だと察知して自然と寄りつかなくなるという。ところが、銃規制や動物愛護といった社会的な風潮の中、行政や猟友会は「できるだけ銃は使わない」という方針に転換した。しかも、ハンターの高齢化が進み、その数も減っている。

 さらには、OSO18によるものも含め、一部の酪農家にはヒグマによる被害を見過ごし、歓迎している向きがあるというのだ。地元の酪農家が重い口を開く。

「被害を未然に防ぎたいのなら、行政と連携して牧草地全域に有刺鉄線を張り巡らせたら、ヒグマの侵入を防ぐことはできる。でも酪農家たちは、だいたい乳牛に保険をかけているんだ。例えば高齢化して廃用牛となった乳牛はヒグマに襲われた方が、かえってカネになるというケースがある。死体も行政が処分してくれるから、一石二鳥なんだよね」

 人間とヒグマの仁義なき戦いだが、実情は複雑怪奇なり‥‥。OSO18の成敗ですんなり解決とはいかないようだ。

*「週刊アサヒ芸能」9月14日号掲載

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