プリゴジン死しても人気衰えず、プーチンが「ワグネル・ブランド」維持にこだわるワケ

 衝撃的だった飛行機墜落事故から6日後の29日、プリゴジン氏の葬儀が故郷のサンクトペテルブルクの墓地で非公開で行われた。タス通信によれば、葬儀は遺族の意思により家族と友人だけで執り行われたとされ、事前にクレムリンが発表した通り、プーチン大統領の参列はなかったようだ、と伝えている。

「プリゴジンのマスコミ担当はこの日、テレグラムに『プリゴジン氏に別れを告げたい人は、サンクトペテルブルクのポロホフスコエ墓地へ行ってほしい』とコメントし、相当数の市民が同氏に最後の別れを伝えるため、墓地を訪れたといいます。死してもなお、プリゴジン人気が収まらない、といった状況が続いています」(ロシアウォッチャー)

 それもそのはずだ。プリゴジン氏率いるワグネルは、欧米ではかねてから「悪名高き」民間軍事会社と称されていたものの、かつてはプーチン氏の私兵と呼ばれ、民間とはいえその活動資金の大半は政府が負担。さらに、ウクライナと戦争勃発後、次々と功績をあげていた時期には「戦場における英雄」としてロシアの国営メディアも、ワグネルを好意的に扱ってきたという背景があるからだ。

 ところが正規軍との間に軋轢が生まれ、不満が爆発。結果、プリゴジン氏によるSNSを多用した軍上層部への痛烈批判が始まり、それがエスカレート。しかし、プリゴジン氏が「われらこそが、真の愛国者だ!」とのイメージを全面的に打ち出したことで、国内でのワグネル人気は上昇する一方だった。

「かねてからワグネルは、人材確保と自社宣伝を目的に国内外に向け、戦闘員が活躍するプロパガンダ的な自主制作映画を何本も発表してきました。ただ、ターゲットはあくまでも世界各地の独裁者や軍事政権に向けたものだった。ところが、ウクライナへの派兵以来、こうしたブランド戦略により、皮肉にも『戦場の英雄』として国内の一般市民にも支持されるようになった。そこで、プロバガンダのノウハウを持つワグネルは、ふがいない軍の上層部を徹底批判することで、さらに国民の心を掴んでいくことに成功したというわけです」(同)

 しかし、出る杭は打たれる。結局、3月に反乱を起こしたプリゴジン氏は飛行機墜落で命を絶つことになったが、とはいえ、プーチン氏としてはまだまだ「ワグネル・ブランド」には一定の価値があると踏んでいるようだ。

「今回の飛行機事故ではプリゴジンほか、3人の主要幹部がすべて亡くなっています。つまり、プーチンとしてはトップをすげ替え、そのままワグネルを正規軍の傘下に収めることが容易になった。ワグネル内部では現在、古参兵士を除きプリゴジンに忠誠を尽くしている兵士は少数で、あとは金が目当ての者ばかりとされます。ただ、一部に報復を企てる兵士がある可能性は捨てきれない。なので、プーチンとしては一日も早く、ワグネルの残党を抱え込み、そのブランド力を利用したいと考えても不思議ではありません」(同)

 トップを失ったワグネルとしても、今後組織を継続するためには、プーチン氏にすり寄っていくしかない。両者による水面下での攻防戦はしばらく続きそうだ。

(灯倫太郎)

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