世界で大ブーム「武士と名刀」(秘)伝説を公開する(3)池田屋事件で刃こぼれなし「虎徹」に贋作疑惑が…

 刀剣には、今に至るも真贋論争がつきまとう。誰もが知る名刀が実は「偽物」だったとしたら‥‥。

 幕末の新選組で、鬼の副長と恐れられた土方歳三が持っていたのは、会津藩主松平容保から拝領した「和泉守兼定」、局長の近藤勇が池田屋事件の際に振るったのは「長曽祢虎徹」という名刀だった。「今宵の虎徹は血に飢えておる」というセリフで有名になった近藤の「虎徹」については、偽物だったという疑惑がある。新選組副長助勤の斎藤一は江戸・四谷の古道具屋で購入した偽物だと明言しているが、近藤はこの刀を虎徹に似ていると愛用していた。当時虎徹は偽物が数多く出回っていて、高価な本物は近藤には手が出なかったのかもしれない。

「池田屋事件の時にも近藤の刀だけは全然刃こぼれもなくて、いちばん丈夫だったそうで、偽物とはいえ、かなり上出来の刀だったと思いますね。かつて、ゴルフのドライバーで中国製の偽物が出回ったことがあって、どれも粗悪品でしたけど、虎徹の偽物の職人はいい仕事をしていたということですね」

 と桐畑氏は笑う。

 古代から代々受け継がれてきた国宝級の名刀よりも、戦国時代に実戦の中で名を馳はせた刀により魅力を感じると桐畑氏。

「江戸時代に柳生と双璧の一刀流の開祖の伊東一刀斎という剣客が持っていた刀で『瓶割刀』というのがあります。三島神社の軒下に住んで用心棒をしていた時、7人の盗賊を斬って最後に大瓶に隠れた1人をその瓶ごと一刀両断に斬ったと言われる『瓶割刀』です。一刀斎はその後、江戸に出て一刀流を広めるんですが、その免許皆伝を相伝したのが第2代将軍秀忠に仕えた小野忠明という有名な剣術指南です。弟子の小野に一刀流を継がせた後は、俺はもう自由に生きるって言って、最期はどこに行ったのかわからないという自由人です。『瓶割刀』は代々の一刀流に受け継がれて、幕末・明治にこの刀を受け継いだのが山岡鉄舟だと伝わるんですが、どうも刀の作者が違うので、一刀斎の『瓶割刀』とは違うニセモノだったようです(笑)。一刀斎本人も刀の行方も不明というのが、なんだかロマンを感じますね」

 鬼を斬り、人を斬ったのは名刀か、はたまた迷刀か。さまざまな妖しの名刀と、かかわった武士・武将の秘密の歴史を訪ねる愉しみは尽きることがないようだ。

河合敦(かわい・あつし)65年、東京都生まれ。多摩大学客員教授。歴史家として数多くの著作を刊行。テレビ出演も多数。最新刊:「日本史の裏側」(扶桑社新書)。

桐畑トール(きりはた・とーる)72年滋賀県出身。お笑いコンビ「ほたるゲンジ」、歴史好き芸人ユニットを結成し戦国ライブ等に出演。「BANGER!!!」(映画サイト)で時代劇評論を連載中。

東郷隆(とうごう・りゅう)国学院大学博物館研究員、編集者を経て作家に。「大砲松」「本朝甲冑奇談」など文学賞受賞作のほか、近刊「怪しい刀剣 鬼を斬る刀」(出版芸術社)、「うつけ者」シリーズ(早川書房)など。

ライフ