司馬遼太郎の国民的ベストセラーの映画化「燃えよ剣」(原田眞人監督・岡田准一主演)が今月15日から全国公開された。幕末の動乱の世に生まれ、江戸幕府から明治維新への大転換の中を駆け抜けた新選組がテーマだ。常住坐臥、死と隣り合わせたその生き様から、コロナ禍を生きる覚悟を学びたい。その魅力と10の謎に迫る。
【謎其の一】なぜ新選組は人気があるのか?
新選組は、坂本龍馬や西郷隆盛、桂小五郎らと並ぶ、幕末日本のヒーローだが、歴史の教科書などでほとんど触れられることはない。それでも、その人気は高い。
新選組は、明治維新を推進した薩摩藩や長州藩と江戸幕府の戦いの中で、負け組の幕府側について、有為な志士達を斬りまくった悪の集団と見られることもある。にもかかわらず、多くの小説や映画、ドラマ、マンガに繰り返し描かれる。
幕末の歴史にハマッて、「ビビる大木の幕末ひとり旅」(敬文舎)を上梓した芸人のビビる大木の解説によれば、
「新選組に皆が惹かれるのは、武士になるという夢を追いかけた青春群像ということに尽きると思います。わずか6年ほどで消滅してしまったというはかなさが、日本人に顕著な判官びいき的感性に訴えかけるものがあるのだと思います」
もう一人、小学校4年の時に司馬遼太郎著の「燃えよ剣」を読んで沖田総司(おきたそうじ)に初恋して以来、江戸や幕末の歴史オタクになった御仁がいる。タレント「お江戸ル」(江戸のアイドル)として活動している堀口茉純は、「新選組・命」と言っても過言ではない。
「10代の頃には初恋のイメージが沖田総司にはありました。年齢を経て20代の頃には土方歳三(ひじかたとしぞう)が付き合いたい人ナンバーワンでした。カッコいい土方さんに遊ばれたい、みたいな(笑)。30代に『新選組グラフィティ1834〜1868』(実業之日本社)を書きましたが、局長の近藤勇(こんどういさみ)を主人公にしました。結婚するなら、近藤さんのような人がいいなと思い始めたからです」
歴史家の河合敦氏はその魅力を、
「人の輝き。新選組を構成している隊士達一人一人が実に個性豊かで魅力的」
だと指摘する。
確かに、全員が剣客・剣豪ぞろいの上に、いかにも親分肌の近藤勇局長、鬼の副長として恐れられながらもイケメンで女にモテまくったという土方歳三、結核に冒されながらも誰よりも敵を斬りまくった天才剣士の沖田総司をはじめ、酒飲みで乱暴者だったために粛清されてしまった芹沢鴨(せりざわかも)など、人間的かつユニークで多士済々、キャラが立っている。
「彼らは当初は『幕府を支える佐幕(さばく)が正義の時代』を生きていたのに、ある日を境に逆賊のレッテルを貼られて敗者の道を歩んでいった。歴史の流れの中で価値観が揺れ動く恐ろしさ、戦争中と戦後もそうだったし、現代の私達にも通じる。今も考え続けなければいけない課題なのでは」(堀口)
河合敦(かわい・あつし)65年、東京都生まれ。多摩大学客員教授。歴史家として数多くの著作を刊行。テレビ出演も多数。近著:「絵画と写真で掘り起こす『オトナの日本史講座』」(祥伝社)。
ビビる大木(びびる・おおき)74年、埼玉県生まれ。お笑い芸人。ジョン万次郎資料館名誉館長、春日部親善大使など、さまざまな観光・親善大使を務める。著書:「ビビる大木の幕末ひとり旅」(敬文舎)ほか。
堀口茉純(ほりぐち・ますみ)東京都生まれ。明治大学文学部卒業後、女優デビュー。「江戸に詳しすぎるタレント=お江戸ル〝ほーりー〟」として注目される。著書:「TOKUGAWA15〜徳川将軍15人の歴史がDEEPにわかる本」(草思社)ほか。
*「週刊アサヒ芸能」10月21日号より。(2)につづく