「敵の殺害に砲弾を使う代わりに、彼らは我々の兵士を殺している」
ロシア正規軍に対しそう吐き捨て、ウクライナ東部の激戦地バフムトから撤退した「ワグネル」を率いるプリゴジン氏。その後も同氏による政権批判は激しさを増す一方だ。
ただ、プリゴジン氏のこうした発言はロシア国営メディアでは一切取り上げられることはない。そのため同氏はSNSで発信、それを独立系メディアが拾い上げる形で報じられている。
そんなブリゴジン氏は、バフムト撤退以降、極東ウラジオストクを皮切りに、中部ノボシビルスク、さらには西部ニジニ・ノブゴルドなどロシア全土を精力的に回り、支援者らとの会合に時間を割いているという。
「プリゴジン氏は、各地を回ることに政治的意図はないとしていますが、当然そこで発言した政権批判を含めた内容は独立系メディアで報道されますからね。誰の目から見ても、政界進出への足掛かりであることは明らかでしょう」(ロシアウォッチャー)
実際、連日メディアに取り上げられていることもあってか、ロシアの独立系世論調査機関「レバダ・センター」が5月末に発表した「最も信頼できる政治家」という世論調査では、メドベージェフ前大統領と並ぶ5位に選ばれている。
「1位はむろん42%のプーチン大統領で、2位に18%のミシュスチン首相、3位に14%のラブロフ外相、4位に10%のショイグ国防相と続くのですが、プリゴジン氏は4%ではあるものの、この調査で上位10人に入ったのは初めて。それも、国営メディアに出ることがなく、すべてがSNSによる発信ですからね。大健闘と言えるでしょう」(同)
3日には、プリゴジン氏が突然SNS上で「我々は招待も許可も待たずにベルゴロドに行き、ロシア国民を守るつもりだ」と発言して波紋が広がっている。
というのも、ウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州は、先月22日に、反プーチンのロシア人民兵組織「自由ロシア軍団」「ロシア義勇軍」により一部の村が占拠された場所で、プリゴジン氏と対立関係にある軍部が駐留し、現在も戦闘が続いているからだ。
そんなこともあり5日には、ロシア軍の元大佐ストレルコフ氏は、ワグネルがロシア軍の許可も得ずにベロゴルドに部隊を進めることを許せば、次にモスクワがドローン攻撃を受けたとき「モスクワを守る」として首都にまで部隊をすすめかねない、と懸念を示した。
「プーチン氏は、ワグネルに代わってカディロフ首長率いるチェチェン共和国の部隊を投入するとしていますが、カディロフ首長は『国民を守るために最高司令官のいかなる命令に対しても準備ができている』と、ベロゴロド入りを訴えています。つまり、ワグネルとチェチェンの部隊が同地に入った場合、正規軍を含めた三つ巴でつばぜり合いが起こる可能性もある。あるいは、プリゴジン氏が本当にポストプーチンを狙っているのであれば、反政府を掲げる『自由ロシア軍団』らと手を組みロシア正規軍と戦うというシナリオも絶対ないとは言えない。ワグネルの囚人兵募集禁止や弾薬供給ストップも、実はプリゴジン氏の背信行為を感知したショイグ氏が、クーデターを起こさせないために行った措置だという報道もありますからね。つまり、この流れのまま大規模な内戦に発展する可能性も否定できないといことです」(同)
いやはや、もはや何が何だかわからなくなってきたロシア情勢。この先にあるのは、ウクライナ軍の猛攻による大敗か、はたまたクーデターによる自滅なのか…。
(灯倫太郎)
*画像はワグネルのSNSより