佐藤治彦「儲かるマネー駆け込み寺」困っている人がもらえない「緊急支援給付金」って…

 始発電車で家を出ることがあります。近県のラジオ局の朝の生放送に出演するためだったり、地方に小旅行をするためです。

 駅に行くと、朝5時過ぎの一番電車に乗るために、多くの人が疲れた顔をして電車が来るのを待っている。見ると、どう見ても70歳、いや80歳過ぎた人も多くいる。私と違って、毎日のように働きに出ているのだと思います。大変だなあと、自然と頭が下がりました。

 もちろん、生涯現役で仕事をすることはすばらしいことです。幸せなことだとも思います。しかし、ある程度の年齢を過ぎたら、少し余裕を持って働きたいものです。食べるために懸命に働くというよりも、家にずーっといるより、働いて社会と関わっているほうが生きがいになるから働く。こうありたいと思います。

 しかし、私が駅で見かける私よりずっと先輩の人たちの中には、働かなくては生活ができないから働く人たちも多いと思うのです。

 物価が上がり、生活に困窮している人は大変だろうと、政府はこの春もいくつかの生活支援を行います。1つは先頃正式に発表となった「電力・ガス・食料品等価格高騰緊急支援給付金」です。光熱費や食費が上がって大変だろうと、世帯当たり5万円の現金給付をします。また東京都では「東京おこめクーポン事業」として、1世帯当たり25キロの米を配布するとしています。米を減らしてうどん、野菜などにすることも可能で、対象はどちらも住民税非課税世帯です。

 昨年、厚労省から発表された資料によると、全国の世帯数は5142万世帯。そのうち住民税非課税世帯は1218万世帯。全体の4分の1です。住民税非課税世帯とは、年間の所得が45万円以下。例えば単身者なら年収100万円以下が目安で、夫婦なら156万円以下です。ただし、ひとり親や障害者、未成年、収入が年金受給だけの場合は異なります。

 早朝5時から働いている人の多くはこの対象ではありません。きっと対象よりも多く給料をもらっていると思うからです。

 ところが、こんな場合はどうでしょう。若い時にたんと稼いで、持ち家があるので家賃は支払う必要がなく、貯蓄も山ほどあって生活に困っていない悠々自適の生活をしている人。働くにしても週に2日、1日5時間だけ働いて月に5万円ほどの収入がある人。生活には困っていませんが、この場合は住民税非課税の可能性もあります。そうなると給付金や、東京都に住んでいれば25キロの米も送ってもらえることになります。

 働かなくても余裕のある人のところに援助がいき、必死に働いても生活苦の人のところには援助がいかない場合がある。何となくヘンだと思いませんか?

 何でこんなおかしなことが起きるかといえば、日本では様々な政策の線引きに使うものさしを「1年間に稼いだ所得」で決めてしまうからです。例えば田園調布や芦屋の土地が100坪もある一戸建に住んでいたり、1億円の貯蓄や株式を持っている人には、たとえ住民税非課税世帯だとしても給付をする必要はないと思うのです。

 それでなくても、子育てをする現役世代の経済的負担を減らすために、予算がもっと必要と言われます。その財源を確保するためにも、今までの収入や所得だけでなく、持っている個人の資産にも目を向けて対象を絞るべきだと思います。

 資産の把握は今まではなかなか難しかったかもしれませんが、マイナンバーカードがこれだけ普及して状況が一変。過去1年間の所得だけでなく、資産も考慮して政策を決めていく。つまり、不動産や資産価値のある債券、株式などの金融資産など、そういう経済基盤もマイナンバーカードにきちんと紐付けして、個々の経済力を誰もが納得できるように公平に把握してほしいものです。

 私はマイナンバーカードをそう使ってほしいと考えていますが、皆さんはどう思われますか?

佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。著書「素人はボロ儲けを狙うのはおやめなさい 安心・安全・確実な投資の教科書」(扶桑社)ほか多数。

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