池上彰「熊本ではいまITバブルが…」/混迷の時代を知る5冊(3)

池上 最後が「半導体戦争」(ダイヤモンド社)です。昔から「産業のコメ」なんて言い方もされましたが、すべての電子機器が半導体によって動くわけです。例えば、今ロシアに対する経済制裁で西側諸国は性能の高い半導体の輸出を止めました。ですから、ロシア国内で作られる自動車は、棺桶になりつつあるとロシア国内で自虐的に言われています。半導体なしでは、自動車のエアバッグなどの安全装置や衝突防止装置が作れなくなっているからです。ロシアでは今、日本の中古車が飛ぶように売れています。ロシアの人も、日本の中古車のほうが安全だ、と知っているのです。

 また、ロシア軍はウクライナに入ってから、民家から冷蔵庫など家電製品を大量に盗んでいます。家電から半導体を抜いて他の物に使おうとしているわけです。加えて、高性能のミサイルには性能の高い半導体が必要です。そのため、ロシアでは狙ったところに正確に撃つミサイルが枯渇し、結果的に民家を吹き飛ばし、民間人の犠牲者が増えているんです。

─恐ろしい。日本は半導体の分野でかなり優秀だったと思いますが。

池上 確かに世界をリードしていた時期はありましたが、気づけば先進国の中ではビリですよ。世界シェアトップの台湾など、最先端のレベルで3〜5ナノレベルの微細な半導体が作られていますが、日本は24ナノとか1ケタも違います。まったく勝負になりません。日本では、熊本に台湾半導体工場の誘致が決まり、IT関係の給与水準が急激に上がっています。熊本だけではなく、九州全体でIT関係の給与が上がるバブル状態になっています。

─まさか、台湾企業が日本でバブルを起こしていたとは‥‥。

池上 なぜそんなことが起きたのかということが、この本を読めばわかります。

 今や半導体はビジネスパーソンにとって避けることができないものです。半導体とは何か、半導体がどんな産業に必要なのか、ということは、あらゆるビジネスをする上でも知っておく必要があります。連休の間にゆっくり充電してみてください。

─はい、勉強になりました。ありがとうございました。

池上彰(いけがみ・あきら):1950年長野県生まれ。1973年にNHK入局。現在はフリージャーナリストとして多方面で活躍。名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授などを務め、大学で教える。「そこが知りたい!ロシア・ウクライナ危機 プーチンは世界と日露関係をどう変えたのか」(徳間書店)など著書多数。

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