北朝鮮は犯人の引き渡しを要求!在スペイン北朝鮮大使館を襲った「自由朝鮮」とは

 密告社会である北朝鮮では、少しでも不穏な動きを見せようものなら即刻拘束、厳しい取り調べを受けたあげく極刑に処されるといった行為が日常的に行われているとされる。

 したがって北朝鮮国内で、おおっぴらに反体制を唱えることは困難だ。ところが、内側がダメなら外側から金正恩政権を打倒する、そんな目的で脱北者らを中心に作られた組織がある。それが、2019年に在スペイン北朝鮮大使館を襲撃して貴重資料が入ったパソコンを盗み出し、米国のFBI(米連邦捜査局)に提供したとされる「自由朝鮮」という組織だ。

 北朝鮮ウォッチャーが説明する。

「自由朝鮮は、かつて『千里馬(チョルリマ)運動』と名乗る北朝鮮反政府組織で、2017年にマレーシアの空港で暗殺された金正男の息子・ハンソルを安全な国に亡命させた事でも知られています。北朝鮮からの脱北者は現在おおよそ3万人と言われていますが、これまでの反体制運動は、せいぜい祖国の民主化に向けラジオを流したり、風船でビラを散布する程度だった。しかし、この組織はハルソンを助け、鮮烈に『金体制打倒』を行動で示したことで、いまや反政府勢力のシンボルとも呼ばれるようになった。むろん、すぐに北朝鮮の体制を脅かすことはないにせよ、金正恩としても放ってはおけない存在になりつつあるようです」

 そんな背景もあるのか、北朝鮮は4日、2019年に発生した在スペイン北朝鮮大使館襲撃事件をめぐり、大使館のパソコンなどを奪うなどした実行犯の一人で、元アメリカ海兵隊員の韓国系アメリカ人を逮捕し、スペインへ引き渡すべきだとする異例の声明を出したのだ。

「北朝鮮が引き渡しを求めているのは、事件後にアメリカで拘束され、スペインへの送還を審理する準備の間に保釈されたクリストファー・アン元海兵隊員。アン氏は自由朝鮮のメンバーとされ、そのアン氏に大使館襲撃の指示を与えたのが自由朝鮮のリーダーである、アドリアン・ホン・チャン氏です。アン氏らメンバーは厳しい警備をかいくぐり大使館を襲撃、パソコンを盗み出したわけですが、当然パソコンには幾重にもセキュリティーがかけられているはずですから、CIAやNSA(米国家安全保障局)のような情報機関でなければ、解除は困難。つまり、この犯行には米国の諜報工作機関が何らかの形で関与、あるいは支援をしている可能性が高いということ。北朝鮮も声明文で、アメリカが『テロ行為を公然と擁護している』とし、襲撃自体にかかわっている見方を示していますが、その可能性は否定できないでしょうね」(同)

 対北融和を最優先してきた韓国・文前政権下では、北朝鮮体制に反対する団体への支援が削られ、対北ビラの散布行為も警察によって取り締まり強化されるなど、脱北者団体の活動が制限されてきたが、尹政権誕生でその流れも変化してきているとされる。

 自由朝鮮は金正恩政権打倒を謳い鼻息は荒いが、彼らの情報が北側に漏洩し、暗殺のターゲットにされているとの懸念もある。今後の活動の行方が注目される。

(灯倫太郎)

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