MLBが「WBC」の先に見据える「中国の大谷翔平」育成の核心

 日本で大盛り上がりのワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。国別対抗で世界一を決める大会なのだから、サッカーW杯のFIFA(国際サッカー連盟)やオリンピックのIOC(国際オリンピック委員会)など統括組織の催しかと思いきや、じつは米メジャーリーグベースボール機構と選手会によって立ち上げられたワールド・ベースボール・クラシック・インク(WBCI)の主催。なので、かなり問題を孕んだイベントでもある。

「主催者のポジションからも分かるように、MLBのビジネス色が目立ちます。例えば日本プロ野球選手会(JPBPA)のホームページには現在も『WBC問題』という項目があって、サッカーW杯やオリンピックと異なり、代表のスポンサー権やグッズライセンス権が参加国ではなくアメリカに帰属することが問題視されています」(スポーツライター)

 そこで当該ページを見ると、JPBPAが問題と考える点が、Q&A形式で指摘されている。それによれば、どうしてこんな形になったかについては、MLBが主導しながらMLB選手が参加に後ろ向きだったため、資金繰り面で不安があったことから、当初から盛り上がりを見せていたジャパンマネーを頼りにスタートしたからではないかと推測している。だから実際、06年大会での東京ラウンドは読売新聞事業部に売却され、放映権やスポンサーシップは電通に売却され、先に売り上げが確保されたのだという。しかも文中には「日本代表ライツがMLBに強奪される」といった過激な文言すらある。

 ではアメリカ国内でWBCをどう見ているかと言えば、かなり関心は低いという。

「アメフトやバスケ同様、野球もアメリカNO.1を決める時には『ワールドシリーズ』という名称が使われていることから分かるように、アメリカでNO.1になれば世界のNO.1ということになり、よってWBCへの関心は低いのです。だから、ケガをした場合に保険が下りることが認められた選手しかWBC大会には出場できず、メジャー通算197勝を誇る大投手のクレイトン・カーショー(ドジャース)などは代表入りが決まっていたにもかかわらず、保険会社の審査が下りなかったため、本人の希望をよそに出場が適わなかったのです」(同)

 アメリカではそんな位置づけのWBCをなぜMLBが推し進めるのかと言えば、そこにはMLBの生き残り戦略があり、狙いは中国市場だという。
 
「アメリカではアメフト、バスケが野球より人気があって野球は3番手。加えて近年アメリカでのサッカー人気の高まりはすさまじく、近い将来、野球を抜くだろうとの見方があります。現状そのままでは、野球人気の衰退と地位の低下はまぬがれません。そこでMLBは中国市場に目をつけた。MLBは08年に中国で少年野球リーグを開催し、09年には中国国内3カ所で選手育成センターを作りました。そして北京五輪の前年には中国オフィスを置きました。12年のロンドン五輪では野球が正式種目から外れるという逆風が吹きましたが、現在も中国に注力していることに変わりはありません。そして最終目標は、中国人の大谷翔平を作ること。そして中国14億人にメジャーリーグの試合を見させて、莫大な放映権料を稼ぐことです」(同)

 商魂たくましいとはこのことだが、それが選手の犠牲の上に立っているということは自覚して欲しいものだ。

(猫間滋)

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