全長3440キロにわたり、事実上の国境を共有している中国とインド。
しかし、川や湖、山頂の雪などにより確定が困難なため、その境界は実効支配線(LAC)と呼ばれ、両国軍が駐留し、長年にわたりにらみ合いが続いてきた。
そんな中、インド軍が12月12日、中国との国境係争地帯で9日に両軍が衝突、双方に多くの負傷者が出たと発表し、波紋が広がっている。
「インドメディアによると、両軍が衝突したのは、北東部アルナチャル・プラデシュ州にある国境地帯で、この衝突でインド側に少なくとも6人、中国側には十数人の負傷者が出たとされています。この衝突についてインド側は、『300人以上の中国軍兵士が侵入しようとしてきたところを阻止した』と主張。一方、中国側は、国境警備隊が定例の巡視活動を実施中、インド軍が『不法に越境』してきたため、『プロとして強力に対応した』とコメントしています」(全国紙記者)
ところが、両国の深刻な発表と裏腹に、実際の「戦闘」は、1発の銃弾も飛び交わず、武器は、こん棒や投石だったという。
実はこの「戦闘」に関しては、その様子を映したとされる映像が、インドのSNSに投稿され、拡散している。映像では、インド兵が木の棒や金属パイプのような武器で中国兵を叩いたり、石を投げている様子が映っていた。ネットライターが言う。
「中国兵も有刺鉄線の反対側から長い警棒のような物で応戦しているように見えますね。やがて有刺鉄線が崩れてインド兵が前進し、中国兵は石の壁を飛び越えてその場から撤退、インド兵から歓声が上がります」
なにやら牧歌的な戦い、などとあなどってはいけない。2年前にも別の国境地帯でこの手の「戦闘」が起きており、その際には死者まで出ているのだ。
「2年前の戦闘とは、2020年6月に、西部ラダック地方のガルワン渓谷で起こった『武力衝突』のことです。この衝突で、インド兵20人と中国兵が少なくとも4人死亡したとされています。当時の報道によれば、この戦闘でもインド兵と中国兵らとの間に銃撃戦はなく、石や警棒などが武器として使われたようです。が、それでも死者が出たのは、国境をめぐって衝突が始まった1975年以来初めてのことでした」(前出・全国紙記者)
死者まで出しながら、両軍が使用する武器が「棒」「石」「素手」のみで、銃器などを使用しないことには大きな理由があるという。
「両国が核を保有する以上、拳銃から発射された1発の弾丸が核戦争に発展する危険性がないとは言い切れないからです。つまり、両国の間には『喧嘩は上等だが、戦争にはエスカレートはしない』という暗黙の了解があるのです。そのため、死者が出たガルワン渓谷での大規模衝突は、両国首脳陣にとっても、大きな衝撃だったとされます」(前出・全国紙記者)
今回の衝突で死者は確認されていないが、両国はいつになったらこんな時代錯誤的な「戦闘」をやめるのか。
(灯倫太郎)