今年も年末を迎え、またぞろ漫才の大型特番が放送される。毎年、新たなお笑いスターの誕生を見届けようと固唾をのんで見守るファンがいる一方で、無関心を決め込むシニア世代がいるのも事実。この世代間ギャップはなぜ生じるのか。上手な笑い納めの方法を伝授しよう。
居酒屋で私と同年輩、まごうかたなきオッサンたちがボソボソやっている。
「M-1の決勝進出者が決まったってな」
「知らねえヤツばっかだ」
「M-1グランプリ」(テレビ朝日系)は〝漫才頂上決戦〟を謳う年末恒例のお笑い番組。今年も12月18日の日曜日、18時34分から生放映される。
「お前、観る?」
「笑えないんじゃねえの」
いやいや御同輩、ちょっと待ってほしい。世知辛さの極まった2022年、せめて師走は漫才で笑い納めようではありませんか。
と言いつつ─私たち昭和世代にM-1への懐疑的な声が多いのは事実。なるほど、3時間半にもわたり10組の若手漫才師に付き合うのはしんどい。おまけに、つまらない漫才が連発されれば「責任者出てこい!」と怒鳴りたくもなる。
しかし、こんな事態を回避する方法がある。そのためにも、M-1の特性を理解しておくべき。さらに、昭和世代ならではの笑いに対する見識と感性を再確認すれば、確実にM-1の愉しみ方が変わってくる。
まず、M-1はありがちなネタ見せ番組ではなく、ガチンコのリアルファイトだと認識してほしい。
M-1は制限時間4分の一本勝負、まるで格闘技のように戦う。爆笑というパンチをどれだけ繰り出せるかで優劣が決まる。
芸人は必死に、真剣にKOを狙ってくる。ストレートを真正面からぶちかますか、斜に構えてダッキングでかわす作戦か。芸人のお手並み拝見といこう。
M-1は漫才ガチンコ勝負ゆえに、通常のネタ見せ番組とかなり肌合いが異なる点にも留意したい。
年末の日曜、ゴールデンタイムのネタ見せ特番とくれば、普通なら、知名度と人気を兼ね備えた本命の芸人をメインに押し出す。そこに対抗馬をあてがい、さらには無名であってもイキのいい穴馬がレースを荒らしまわる─こんな展開がお馴染みのところだろう。
しかし、あえてM-1はそれをやらない。出来レースを否定して出場者を横一列で扱い、スポーツ中継に似た手法で制作される。
だからこそ、かつてのK-1でアンディ・フグやアーネスト・ホーストが脚光を浴びたように、過去のM-1からも麒麟、笑い飯、千鳥、アンタッチャブル、サンドウィッチマン、霜降り明星、錦鯉‥‥といった知られざる実力者たちが飛び出してきた。
今年の決勝進出者を眺めると、全国的な知名度を持つ芸人はゼロと言っていい。ということは、全員が本命であると同時にダークホースになり得る。こんなにスリリングな展開は滅多にお目にかかれない。乱戦、混戦から誰が勝ち上がるのか、次代のスターが誕生する瞬間を目撃しよう。
増田晶文(ますだまさふみ)作家、昭和35年大阪府出身、同志社大学卒。芸人やプロダクションの取材を重ね、雑誌に寄稿したり「吉本興業の正体」「お笑い芸人就職読本」(ともに草思社)などを刊行。近年は文芸作品に力を注ぎ、来春に楠木正成が主人公の時代小説を発表予定。